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新工場稼働で全社員復帰も視野に(畠和水産・宮城県気仙沼市)

復興へのシナリオ 被災中小事業者の挑戦と震災復興支援アドバイザー
畠和水産
【事業内容】 冷凍マグロの生食用加工品
 

明治創業の老舗が津波で全壊状態に

畠山専務と家本取締役
「夢は気仙沼の海のそばに工場を」と話す畠山和貴・専務取締役(左)と家本美千代・取締役(気仙沼事務所で)
 112年続いた会社も、これですべて終わった─
 畠和水産の4代目として実質的に社業を切り盛りしていた畠山和貴(はたやまかずき)・専務取締役(46歳)は、東日本大震災の津波で社屋から工場まで、ほぼ全壊状態となってしまった無残な光景を目の当たりにし、心底そう思った。
 畠和水産は、気仙沼漁港の市場に近い鹿折(ししおり)地区を中心に本社ビル、3000トン級の超低温大型冷蔵庫のほか、冷凍加工場2カ所、直売所を所有、約50人の従業員が働いていた。冷凍マグロを原料とするマグロブロックやねぎとろ、マグロの切り落としなど、すべて生食用の加工製品を生産、全国に出荷するなどの取引を行っていた。
 船問屋として明治32年に創業、昭和40年代半ばから現在の冷凍マグロを中心とする生鮮魚介類の卸販売をはじめ、これまで営々として受け継いできた事業も、この津波で風前の灯となっていた。

震災からわずか9日後、復興に向けて動き出す

 そうした重い空気を跳ね返したのが畠山専務の実姉である家本美千代・取締役の「震災ごときに負けて、会社をやめるのは納得できない。再興の道を考えよう」の一言。
 震災から9日後の3月20日、土台だけが残る本社前に全従業員を集め、社長自らが再興への熱い思いを語り、この日を境に畠和水産は復興への取り組みをスタートさせることになる。
 畠山専務がまず手を打ったのが、冷凍マグロを扱うための超低温冷蔵庫の確保。宮城県内でも比較的被害が小さかった塩釜市や仙台市のほか、冷凍マグロで実績のある静岡県の焼津市、清水市での拠点設置を検討した。
 そんな中、水産物卸売市場を営む弘前丸魚(青森県弘前市)が、超低温冷蔵庫とともに加工工場も提供したいという話が持ち上がる。
 その温情にトントン拍子でコトが進み、昨年7月には加工工場の建設に着手、8月には5人の社員を派遣して生産を開始した。「ねぎとろ、切り落としの最終製品に絞り、月産約15トンと以前の半分の生産量ですが、これが本格復興への第一歩」と話す。

補助金を活用して新たな加工工場を建設中

気仙沼事務所に建設中の加工工場と超低温冷蔵倉庫
気仙沼事務所に建設中の加工工場と超低温冷蔵倉庫
 いま復興への“本陣”となっているのが、気仙沼漁港から車で20分ほど山側に入った気仙沼事務所。10年前に取得していたこの土地に、復興第2弾として現在、超低温冷蔵倉庫と月間100トンの生産が可能な加工工場を建設中だ。
 被災した中小企業に国と自治体が再建費用の4分の3を補助する「中小企業等グループ施設等復旧整備補助事業」制度を活用したもので、今年3月に着工、10月には完成の運びとなる。最新の廃水処理設備も完備、設備投資総額約7億円のうち、厳しい経営状況の中、2億円の自己資金も何とか調達した。
 「新工場の稼働で、震災前の2カ所の加工工場を合わせた生産能力はほぼ同規模となります。ただ、震災で一度すべてのお客さまを失いましたので、フル操業にするためにはそれを取り戻さなくてはなりません。今後の課題です」と畠山専務。社員も10月の時点で弘前工場などと合わせて25人ほどになる。やむなく解雇の形にした全社員の復帰も視野に入りつつあり、復興への手応えを実感として受け止めている。

補助金申請の資料づくりに震災復興支援アドバイザー制度を活用

 中小機構の復興支援アドバイザー(AD)を知ったのは、中小企業庁や中小機構東北本部などの主催で昨年6月27日に気仙沼市で行われた「被災者支援施策説明会・ワンストップ相談会」。家本取締役が、第1次グループ化補助金事業で落選し、今後の経営の方向性に悩んでいたとき、「錯綜している情報を整理しよう」と参加、講師のひとり、渡辺進也・中小機構東北本部復興支援ADの話を聞き、相談を持ちかけたのがきっかけだ。
 渡辺ADには、グループ化補助金の対象事業として認定されるために必要な試算表の提示、5年先の事業計画、資金計画、借入金の返済シミュレーションなど具体的な資料の作成づくりについてアドバイスを受けた。「これまでは借入金を調達することなく事業を進めてこれましたので、事業計画の作成とか初めての経験で、たいへん勉強になりました。第3次のグループ化補助金事業で認定されたのもそのアドバイスがあったから」と家本取締役。
 現在、宮城県の高度化スキームによる貸付制度を申請中だが、「その資料づくりでも教えていただいたことがそのまま役に立ち、とても参考になりました」と、渡辺ADのアドバイスをこう評価する。「今後も国や自治体の支援を会社としてどう活用できるか、アドバイスしてほしい」と期待を込める。
 復興支援ADのアドバイスを受け、事業の復興にもエンジンがかかり始めた畠和水産。畠山専務は「いずれは気仙沼の海のそばに工場を持ちたい。それが実現してこそ本当の復興です」と、声を絞り出すように決意を語った。

 

企業と同じ立場・目線で対応

復興支援アドバイザー 渡辺進也

復興支援アドバイザー 渡辺進也 氏

 中小企業診断士の資格を取得したのが6年前。2代目中小経営者としての自身の経験を生かし、新事業展開を目指す経営者のコンサルティングをしたいと思ったのが動機です。
 中小機構の復興支援アドバイザーとなったのは、生まれ育った東北の地の被災を目の当たりにして、被災企業のお役に立ちたい一念から。
 被災企業との相談、アドバイスに関してはピーク時ですと1日12社ほどあります。畠和水産もその1社。「資金繰りを含め、再起へ何をしていいか分からない」がはじめの相談内容でした。
 本社、工場すべて失った企業に何のアドバイスができるか、最初は自信がなかったのですが、再興へのその熱意に、自分の知識、経験をすべて生かそうと心に決めました。
 まず、畠和水産の現状を徹底してヒアリングし、現在の所有資産、過去の決算書、企業体質などを丁寧に調べ、そこから今後の経営計画、資金調達、返済へのシミュレーションなどを数値化することをアドバイスしました。畠和水産は管理体制がしっかりしていて、事業計画策定はやりがいを感じました。被災企業の状況を的確に把握し、実情に即した再建・復興計画を作り上げていくことがポイントです。
 大切なのは企業と同じ立場に立ち、同じ目線で対応することです。復興支援アドバイザーとして初心を忘れず、今後も使命感をもって被災企業の期待に応えていきたいです。
中小企業施策普及紙「中小企業振興」/平成24年9月1日発行 第1079号

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