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第5回 鼎談─気仙沼、本復旧の入り口段階に【2】

復興へさらなる前進 宮城県気仙沼市

人材育成が鍵

菅原

 震災から4年経ち、今後の方向として人材育成が重要になってきたと感じています。マーケティングやマネジメントなどの力を備えた人材を育てていくほか、会議所での経営相談、経営計画策定などを通じて、本格復興に当たり自分はどうするのか、また地方創生政策の支援メニューをどう使っていくかを個々の事業者に考えてもらわなくてはいけない。継続的に相談することで自らこうしたことも考えるようになり、地域の経営者や社員の人材育成につながっていきます。

渡辺

 確かに、事業者さんにはそうしたニーズはたくさんあるのですが、現場からは、さらに「どんな支援策や補助金が自分に当てはまるのかが分からない」という声が多いのです。フェース・ツー・フェースによる個人レベル・直接の情報発信が強く求められていると感じています。

菅原

 なかには、「これは自分に当てはまらない」とあきらめている人もいますからね。

守屋

 先ほど会頭が触れられた地方創生のために何が必要かというと、地域産業が元気になることが重要です。地方に行くと、ほとんどが中小企業で、そこを魅力ある雇用の場にしないと、若い人は出て行ってしまう。そのときに大切なのが、経営人材がどれだけ育成されているかです。経営計画の話が出ましたが、計画は作っただけではだめで、これを回していく経営人材・経営体質が必要です。そこまでやらないと、なかなか実力のある企業にはならない。中小機構では、今回の復興だけでなく、例えば新商品開発でも企業が継続的に開発できる体質となるような支援を大切にしています。この点でも、お手伝いできることがあればと思います。

菅原

 気仙沼全体の人口は減っていますが、震災後はIターン、Uターンが増え、25〜44歳の流入人口は増えています。震災後にボランティアに来て気仙沼の魅力にはまり、または地元の人とつながりができ、例えば東京から移住する人も結構います。問題は、彼らは「年収が半分になっても頑張る」と言っているのですが、そうした状態が長い間続くとは思えない。こうした人たちが気仙沼でビジネスを続けられるようになることが大事です。われわれは「フローをストックにしよう」と、この復興期に起きていることを一過性で終わらせるのではなく、それを地域の力にしていく。さらにはIターンやUターンの人たちが一過性ではなく、地域に定住できるようにしたい。会議所としてもそうした人たちへの支援策が必要になりますが、「目の前の課題を処理する」ことから、「将来を見据えてどのように展開するか」についてのアドバイスが重要になってくると思います。

守屋

 Iターン希望者がそれだけいて、定住していただくことは大事ですが、これを増やしていこうとするときに求められるのが、気仙沼のブランド力だと思います。被災者は本当に大変だったと思いますが、気仙沼の知名度は全国的に上がりました。誤解がないようにしていただきたいのですが、これをチャンスととらえ、ブランド力を向上させる情報発信が重要だと思います。

菅原

 そうですね。ブランド化に向けて、気仙沼にはたくさんの種があるのですが、散らばっており、絞り切れていないため、一過性で終わらないかと危惧しています。フローをストックにするためには、きちんとした事業構想を立て、ビジネスにしないとだめです。例えば、気仙沼では漁業者だった人が体験学習などで観光を手がけている例もありますが、まだ商売になっていない。きちんと原価計算をして、単価を10倍にしても観光客が集まるコンテンツにしていく感覚を持つことが絶対に必要です。そういうときは、渡辺アドバイザーの出番になると思います。

渡辺

 菅原会頭のおっしゃるとおり、事業化の感覚が必要だと思います。事業化に当たっては、利益計画とビジネスモデルの組み方などを考えた事業化が必要です。事業計画の精度を高めることで、成功可能性は大いに高まります。具体的には、経営戦略に基づき、商品・価格戦略と独自のチャンネル戦略により、十分な客単価を設計します。また、プロモーション戦略により、必要な客数確保を目指します。計画段階から独自のポジションを築くことが事業成功のポイントとなります。また、数値目標を設定し、進捗率を管理していく仕組みづくりも重要です。

菅原

 中小機構には事業者からの経営相談を受けていただいていますが、被災者だけでなく、新しい事業を興す人に、事業計画、利益計画を教えていただくことが大事だと思っています。中小機構の力を借りて自分自身の経営力を身に着け、ビジネスとして続けられるような流れができるといいですね。復旧・復興といいますが、復旧はハードの問題で、震災前の設備を元に戻すことが基本ですが、復興とは本来、震災前より良くなることです。一人一人が震災前よりも良くなりたいという気持ちに後押しされるのが復興だと思います。気仙沼に戻る人、入ってくる人がもっと増えたとき、震災前よりも良くなった状態になっていると、本当の意味での復興支援ができたといえるのではないでしょうか。ハード面の支援も必要ですが、新しいノウハウや考え方を含めたソフト面の支援があって初めて創造的な復興ができるのではないかと考えます。

渡辺

 最近、気仙沼商工会議所職員の方々からの相談も増えています。職員の方々もさまざまな局面での疑問や悩みを抱えておられますが、中小機構のアドバイザーと一緒に考えていくという非常に良い流れができていると感じています。

菅原

 事業者と会議所職員が正面から向き合うようになりました。そうやって情報交換していくと困っていることが分かるし、中小機構側にもニーズを伝えやすくなっていきます。会議所はそういう役割を果たしていく存在だと思いますね。

守屋本部長、菅原会頭、渡辺アドバイザー

話に熱が入る(左から)守屋本部長、菅原会頭、渡辺アドバイザー

3つの観光振興策

守屋

 三陸沖は世界の3大漁場の一つですが、会頭は地域活性化伝道師もされているとお聞きしています。まちづくりをしていくにも、観光や地域資源の素材が多い中で、どのような考えを持っておられますか。

菅原

 3つの作戦を立てています。一つは、観光のコンテンツ強化です。震災前は一部のホテル・旅館や飲食店などの、いわゆる観光事業に関わる人が一生懸命やっていました。しかし、震災をきっかけとして、先ほどあげたように、漁業関係の人やまちづくりに携わる人が観光に興味を持ち始め、プレーヤーが増えてきました。これはチャンスだと思っています。市民全員が観光産業のプレーヤーになり得る。街を挙げた観光産業の活性化を目指したいですね。これまでは観光スポットが各所に点在しており、素材も多いため、コンテンツについても絞り切れていませんでした。これでは弱いため、オンリーワンの素材に絞ってコンテンツを強化していくことが重要だと思います。
 2つ目は、食のブランド化です。食材が豊富で、日本一、世界一のものがいくつもあります。例えば、フカヒレやカツオ、サンマなどで、とくに生のメカジキは国内シェア7割です。これらの素材も絞り切れていなかったのですが、当面はメカジキに絞り、気仙沼でしか味わえない料理を発信しようとしています。試行段階として気仙沼の飲食店6店舗を選び、しゃぶしゃぶ、すきやき、焼く、煮るなど独自のメカジキ料理を提供してもらっています。観光に来た方が、メカジキだけでなく、ほかにもいろいろあると分かり、満足して帰っていただきたいと考えています。
 3つ目は、情報発信力の強化で、組織的にきちんとしたプロモーションをやっていきます。今年度からの具体策を練っていますが、会議所も予算をつけています。プロモーションには外に向けての発信と、気仙沼に来られた観光客への情報提供があります。観光客向けには、スマートフォン用アプリ「気仙沼観光ナビ」をつくり、市内にいらっしゃった人は全店舗の情報が検索できるようになります。これは近く実現します。私自身も国内外の観光地の先進事例を視察し、ハードに頼る観光ではなく、滞在型などソフトをうまくつくっているところを参考にしたいと思います。

渡辺アドバイザー

渡辺アドバイザー

渡辺

 ブランドについては、認知度を評価基準にする場合がありますが、ブランド価値を高めるためには、ブランド連想が重要視されるべきであると私は思います。気仙沼の場合でも、どのような体験ができるかを連想できることが必要です。会頭のお話にもあった顧客ニーズに合致するコンテンツ・体験価値を提供することでブランド力が高まります。また、情報発信の相乗効果が発揮され、より浸透させやすくなります。私自身も気仙沼は、とても魅力のある街だと思っています。モノを全面に出すのではなく、何を達成できるのか? という顧客にとっての体験価値を検討し、ブランド連想を設計してブランドづくりを推進されることが望ましいと思います。

守屋

 観光の付加価値をつけるためには、体験や物語が重要になってきます。観光のモノ自体は大差があるわけではないからです。

菅原

 気仙沼と聞いて、どういう観光地かとイメージできるようにしなければならないということですね。例えば、京都=お寺・神社など歴史を感じる、軽井沢=別荘地みたいなことですね。気仙沼といえば、水産物や港というイメージはあるのですが、実際にそこで何を体験でき、どんな幸せが待っているかというイメージを持ってもらえることが大事ですね。

守屋

 地元では当たり前のことでも、外の人からみれば珍しいということもあるので、積極的に外の人の意見を聞いてみることも必要でしょうね。

菅原

 震災復興でボランティアにこられた方々のアイデアも入ってきています。われわれはメカジキの刺身を当たり前に食べていましたが、例えば仙台市では刺身では食べないと聞き、びっくりしました。それを教えてくれたのがボランティアの方です。そこで地元の人で知恵を出し合って考えたところ、「メカジキのブランド化」が出てきました。メカジキの次は、圧倒的に日本一の水揚げを誇るカツオです。ただ、同じブランド化でも、ブランド化が目的ではなく、ブランドをツールとして使うことが必要だと思っています。体験的価値、情緒的価値のようなものをどう伝えられるかが課題です。

渡辺

 気仙沼では、お話に出たように、メカジキやマグロ、カツオ、サンマ、フカヒレなど独自の地域資源があります。気仙沼のブランド化を推進するためには、統一的なコンセプトに基づき、食べる、見る、遊ぶなどの体験型の付加価値をメニュー化して提供していくことを期待したいですね。

商業地のあり方検討

菅原

 商業地のまちづくりでは、いま市役所にも商圏などの分析をお願いしており、それを見据えながら商業地のあり方の検討を始めています。ただ、これから市内3カ所に商業地をつくる計画がありますが、市役所や会議所などの上からのまちづくりではだめで、各エリアで話し合い、それぞれに考えを出してもらい、それに対してわれわれが調整の支援をしていくということで進めています。具体的には、会議所への義捐金などを使わせていただき、各エリアの商業まちづくりの計画策定に補助金を出し、自分のエリアをどうしたいのかを考えてもらっています。同時に、海沿いの観光エリアをどうつくっていくかということも検討しています。

守屋

 津波被害があった海沿いには新しい建物などが建ち始めていますが、景観上の方針は出ていますか。

菅原

 景観については、すでにイメージ的な話はしていますが、今年度から専門家も入れて本格的な議論を始め、ガイドラインを策定する予定です。観光地としての顔づくりの大きなテーマとなります。

守屋

 今後もわれわれは全面的に支援していきますので、気仙沼の復興に向けて、会頭、そして商工会議所の職員の方々のさらなるご活躍を期待しています。本日はお忙しい中、お時間をいただき、ありがとうございました。

中小企業施策普及紙「中小企業振興」/平成27年5月1日発行 第1143号

 

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