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5月 琿春輸出加工区

 琿春は中国の東北地方、吉林省の東のはずれに位置します。最寄りの空港がある延吉市からは国道を車で2時間ばかり走らせたところ。同市は、延吉市、図們市、敦化市などとともに、延辺朝鮮族自治州(州都は延吉市)に含まれています。北朝鮮、ロシアとの国境に近く、また、かつて満州と呼ばれた広大な地域に含まれるこの辺りは、住民の約40%が朝鮮族、20%が満州族、それ以外が漢族、蒙古族、回族等、多民族が混在し居住しています。街頭メインストリート沿いに掲げられた商店の看板などもその殆どがハングルで標記されています。


 昨年4月、国務院により「輸出加工区」の設置が批准され、手始めに、その第1段階として全国15ヶ所※の経済技術開発区に「輸出加工区」を設置することが決定されました。琿春はその15ヶ所のひとつとして「琿春辺境経済合作区(88km2(国家レベル))」内の2.44km2が「輸出加工区」に指定されました。

道路一本分の中国領

道路一本分が中国領。右側が北朝鮮、左側がロシア領。この先は人民解放軍国境警備兵によってビデオ撮影を禁止された

「輸出加工区」は、中国がWTO(世界貿易機関)加盟後の更なる輸出促進策として、国家としてよりメリットの大きいインフラを整備し、輸出比率の高い外資系企業を誘致しようとするものです。 よって、「輸出加工区」への進出が認められるのは輸出加工製造業と運輸業(物流倉庫及び運輸サービスを含む)のみ、即ち、加工区内の業態は「製品加工」と「輸出」のみに特化されています。

「輸出加工区」は基本的に海関(税関)の監督、管理下に置かれています。「琿春輸出加工区」における優遇政策は概ね以下のとおりです。


1.区内企業の法人税率は15%(通常は33%)。

2.区内企業には「加工貿易銀行保証金台帳制度」、「加工貿易登録手帳」による管理制度を実施しない。加工貿易に係る増値税は免除。

3.輸出入貨物に対しては区内で一律に通関処理。直通式の監督、管理。

4.区内の企業が生産のために輸入する設備、金型、機械、建築物資、事務用品は免税。

5.生産用輸入原材料、部品、包装資材等は全額保税処理。

6.区外から持ち込まれる原材料、部品、包装材料、建築物資、事務用品等は輸出増値税還付。

7.加工区間での原材料、半製品の輸出入は輸出側の所管税関の審査手続きを経て行う。

8.区内の企業が加工区外で委託加工を行う場合は、海関の許可を受け登録を行い、一年以内に加工区内に戻し登録抹消を行えば全額保税処理が可能。

図們江と大橋

図們江に架かる大橋(日本の援助で作ったという)。橋の向こうは北朝鮮。左側の白く見える建物は北朝鮮の国境関

 因みに、筆者が訪れた時点で、「琿春輸出加工区」そのものの開発状況は、まだ全体の四分の一にも満たない0.4km2のエリアが整備されただけの状況であり、加工区入り口に聳え立つ壮麗な門構え以外は酷く閑散としていました。後から解ったことですが、正式な認可は、まだこの4月に下りたばかりとのこと。正にこれからが本番、という状況だったのでした。

「琿春輸出加工区」が存在するこの場所は、何年か前に、わが国内でも環日本海圏貿易の要衝「図們江(トメンチャンまたはトマンコウ)河口」の名で注目されたことが有るので、ご記憶の方も多いのではないかと思います。実際、既に北朝鮮の羅津(ラジン)港、ロシアのポシェット港、ザルビノ港等を経て日本海に面した秋田市、新潟市の他、伊予三島市との間で、更に、韓国釜山市、束草市との間に定期貨物(コンテナ)航路が運行されています。また、地理的な条件の良さから、琿春を経由してのロシア、北朝鮮との国境貿易も盛んで、国境関(口岸)付近では、家庭用雑貨、あるいは材木等、様々な物資を満載したトラックに家族揃って乗り込み、商売と買出しを兼ね、市内に向かう国道をひた走る陽気なロシア人たちに出会うことも有ります。

ロシア人家族

入国手続きの順番を待つロシア人家族

 未だ、規模こそ瞠目する迄には至らないものの、ここ琿春を基点とした人とモノと金の流れは確実に成長を遂げつつ有ります。ただ残念なのは、中国領内に直接積荷の上げ下ろしが出来る港が無い。地図上、目を皿にしてよく見ると解りますが、図們江はその流れのままに日本海へと注いでいますが、中国領は日本海を目前にして、ちょうど上下の唇の様に、北からはロシア領、南からは北朝鮮領によって行く手を阻まれた形になっています。従って、ここからの貨物はそれぞれの口岸を超え、先述の両国の港を経て船出することになります。

 筆者は、これまで、輸出加工区に指定された経済技術開発区のうちの幾つか(松江、蘇州、昆山、大連、天津等)を実地に訪れてみましたが、そのいずれもが経済技術開発区としては既にかなりの成長を遂げている地域でした。従って、「輸出加工区」の囲みさえ設ければ、内部環境の整備を待つまでもなく進出希望企業は相当数に上るであろうと思われました。

炭鉱

国道沿いのあちこちで石炭の露天掘を行っている

 しかし、琿春の場合は、それら地域とまったく同列で考えることは出来ない、と言うのが率直な思いです。その理由として、先ず吉林省が沿海部に有りながら中西部大開発の対象地域となっていることからも明らかな様に、この地域自体の基本インフラ整備が相対的に立ち遅れていること、特に、物流ルート、琿春と国内周辺都市とを結ぶ陸上交通の要とも言える高速道路網の整備の遅れが指摘されます。琿春は、先述のとおり、対ロシア、対北朝鮮との国境貿易には誠に至便の地だと言えますが、ハルピン、長春、瀋陽等、従来より国有大企業をはじめ、各産業分野が集積する中国内陸部主要都市との連絡は現在のところ旧来の改修の覚束ない国道に頼らざるを得ないというのが実情です。勿論、既に高速道路網の整備計画は有り、州都である延吉から図メン迄の間は今年中に開通する予定であるとのことですが、これらが本格的に機能するのは今少し先のことになりそうです。

 

 更に、延吉空港の国際線定期便のアクセス数の少なさは外資を導入する上で、やはり不利だと考えられます。現状、日本からは大連、瀋陽等を経由しなければなりません。斯様な理由も手伝ってか、日本からの企業の進出事例は、未だごく僅かの様です。ただ一方で、唯一、国際線定期路線で結ばれている韓国のみは例外と言えます。そもそもソウル−延吉間の定期路線は、北朝鮮に縁のある韓国の人々が、ここ延吉を経て故地北朝鮮の秀峰長白山を遥かに遠望するという。この観光収益によってこそ成り立っていた路線だと言えます。しかし改革開放が進んだ今日、ハングルが日常語として通用するこの地は、韓国人にとっては、正に親戚の家に来たようなもので、ビジネスの上でも非常に有利に働いているようで、事実、このことは、「琿春辺境経済合作区」に進出している130近い企業の大部分を韓国系が占めている事からも窺い知ることが出来ます。

琿春輸出加工区ゲート

厳然と聳える「琿春輸出加工区」のゲート

 いずれにしても、琿春は、その地理的条件(日本海沿海、ロシア、北朝鮮との国境、少数民族(朝鮮族)自治体)、地域経済の発展レベル(西部大開発の対象地域)等において、他の「輸出加工区」とは極めて異なる特徴を有しています。それだけに、中国政府がここをあえて「輸出加工区」に指定したことへの思惑と期待が見え隠れする様です。現在のところ基本インフラの整備にやや難点が有りスロースタートの様相ですが、何と言っても万里の長城を作った国のことです。再び脚光を浴びるのも左程遠い将来のことではないでしょう。


※全国15ヶ所の「輸出加工区」
琿春、大連、北京、天津、煙台、威海、松江、蘇州、昆山、杭州、アモイ、広州、シンセン、武漢、成都

琿春市内

琿春市内点描