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第4回 新型肺炎(SARS)に係る現地中小企業経営への影響と対策

1.新型肺炎(SARS)防止対策と影響


※感染拡大防止策(移動制限)に起因する経営障害


 中国、台湾で拡大した新型肺炎(SARS)は、香港、広東省への渡航延期勧告が解除されるなど沈静化の傾向を見せつつあり、感染ルートの解明も進められている。しかし、いまだ特効薬がなく現在でも感染防止措置として、中国では国内移動の制限を行っている。


 海外の感染地域であるシンガポール、香港、台湾、フィリピン(マニラ市)、カナダ(トロント市)や国内の感染地域として指定されている重点地区の都市と上海を往復する場合、体温測定や帰宅後2週間の自宅待機といった医学観察または健康観察が義務付けられており、人の移動を制限することで感染拡大の防止を図っている。この制限は、都市ごとに政府が通告を発する形で行われており、現時点で解除の見込みは立っていない。

オフィスビル入り口のSARS予防通告

オフィスビル入り口のSARS予防通告

 例えば車で上海市の外へ移動する場合、予め事務所所在地の陸上運輸管理所で健康連絡カードの交付を受け、登録した上で市境を通過しなければならない。また住居やオフィスビル入門時の健康チェックが最近一般化して来ている。


 こうした中、企業においては、海外および国内における従業員の移動制限と感染拡大に対する防止措置に起因する経営上の様々な問題が派生している。

オフィスビル入り口での体温測定の実施風景

オフィスビル入り口での体温測定の実施風景

2.現在の経営活動に対する影響

※人の移動障害に伴う商談等諸活動の停滞
※物の移動延期に伴う対策の発生
→企画・開発、受注、調達(設備・資材)、生産、物流、販売など経営機能全般におよぶ
※既受注分への対応と在庫積み増しで逆繁忙


 上海市内に事業展開する日系中小企業に電話等で話をうかがったところ、具体的な影響は、次のとおりであった。


●営業活動の制限


 出張制限や来社制限の実施により営業活動の停滞が発生しつつある。展示会の中止によって新規商談・商談機会が制限されたり、相手先との打ち合わせが出来ず新商品の開発が出来ない。中国国内販売を展開する中小アパレル企業は、従業員の国内移動の原則禁止措置や日本から中国への出張の禁止といった日中間の往来の禁止により、こうした打合せの中止や予定していたイベントの中止など、新規顧客の掘り起こし、受注先開拓といった活動に支障を来たしている。現在でも中国政府は人が集まる催事を規制しており、国内各地で大型展示会が延期となっている。


●部品・原材料調達に支障


 省、市、県の境界で車輌の消毒、運転手の検温・健康状態記録といった検問が実施され、感染地域からの荷物に対して場合によっては消毒が実施されている。トラックの中・長距離輸送については、危険指定地域から帰省した運転手は10日間の自宅待機が必要なことから減便運行。貨物列車による輸送は、出発・到着貨物ともに1輌ごとの厳重な消毒・検査も行われており、荷物受取時間が定まらず、納期面で遅れが発生している。また、航空輸送は、中国国内便の乗客減少に伴う就航ダイヤの減便で予約待ちが発生し、貨物スペースの確保も難しく、価格の高騰と貨物受取の遅延で、通常の時期に比べ数時間から2日前後の遅れと費用が発生している。


 こうしたことから、香港や広東省から部品を調達している中小電子部品メーカーでは、調達遅れを見込んだ1〜2週間の発注の前倒しで対応している状況。部材・製品の在庫積み増しで、逆に繁忙状態。また上海市で物流サービスを行っている中小運輸業は、顧客へのサービスの悪化を防ぐため、その対応に苦慮している。


●検品活動への影響


 中国国内出張ができず、検品作業に支障が出ている企業もある。上海市内に拠点を持ち江蘇省、浙江省で委託加工を実施している企業は、出張による検品を日本での検品に切り替えた。日本でのコストアップが発生してしまったとのことである。また、電話やFAXに切り替えて業務連絡をしているが、出張は不可欠で、連絡にも限界を来たしそうだとのことである。


●中国国内売上の減少


 貿易会社などでは、中国への機器設置の延期やアパレル製品の日本での販売量の一部減少の影響を受け売上が減少。飲食サービス企業にあっては、外食の差し控えが直接響いている。また、売掛金回収困難との声も聞かれる。地域によって、地方からの出稼ぎ労働者を多数雇用する建設工事が中断しており、建設工事の減少に伴う建設機械発注や建設機械部品発注の減少もある。


●対策費用の発生


 物品を介しての感染の可能性は無いとされるが、日本へ輸出する製品に対する顧客へのイメージアップを図るため、消毒をあえて行い出荷している企業もある。


 消毒や検温、マスク調達、手洗い消毒剤など、従業員の感染予防に伴う資材費用の出費、地下鉄・バスでの通勤を禁止し社用車による通勤を認めたり、タクシーでの出勤許可による費用の増加など、管理費用の支出も発生している。


●新規事業展開の中断


 現地派遣者の一時帰国により中国での法人設立が途中でストップしたり、現地工場立ち上げの一時中断といったケースも多数発生している。中国企業との競争に先んじようと計画していた事業計画や、今年秋からの生産スタートを見込んでいた計画の大幅見直しが迫られている。


 ところで、5月8日から14日にかけて行ったアンケート調査結果によれば「商談停滞(77.1%)」、「技術者の移動制限による生産停滞(44.9%)」、「新規事業の延期(25.7%)」、「契約・予約キャンセル(21.4%)」、「部品調達の停滞(19.0%)」、「設備投資の延期(13.7%)」、「製品輸出の停滞(8.7%)」(複数回答)と言った影響に対し、「部品・在庫等の積み増し(31.0)」、「PRを通じた販売促進活動強化(9.2%)」、「代替生産拠点の検討(8.5%)」、「部品調達先の変更(3.4%)」、「製品輸出先の変更(0.7%)」(複数回答)と言った対応が企業で行われている。


3.今後予想される影響

※2003年後半への影響(秋期以降の新商品対応)
→展示会、交易会での受注活動停滞による受注減
※新規投資の遅延と計画の大幅修正


 北京市統計局では、SARSの影響が中国一般消費市場へ大きく影響しているとの見解を示している。飲食業、百貨店では4月下旬以降売上額が急激に減少しており、影響が懸念されている。個人の消費動向を示す社会消費小売総額が4月に10ポイントほど低下。なかでも飲食関連業種は外食や観光客の減少で大きな打撃を受けている。マクドナルドの4月の売上は前年同月比27.5%減少。百貨店の売上は大幅に減少し、北京19店の小売総額は9億4,000万元と前年同月比17.6%減となっている。これらは他の中国の都市でも少なからず同様の傾向が生じていると思われる。感染拡大で医薬品関係や公共交通機関の利用を避けるための自動車・自転車の消費が伸びた一方、旅行、ホテル、タクシーや運輸、サービスなどの業績が落ち込んでいる。


 外資企業による対中投資にも影響が出始め新規投資の延期が発生している。中国政府は一時的に対中投資は減少するとしても、感染状態が落ち着けば、投資は直ぐにも回復するとの見方を示している。他方、4月に開催された第93回中国出口商品交易会(広州交易会)は、昨年比19%の来場者数となり、成約額は前年春比74%減と大きく下回るなど、輸出入に関しては、SARSの影響が第2四半期から出始めると予測され、今年後半の売上額は相当影響を受けるものと思われる。



4.今後の対応策

※ヒト:従業員への感染防止策の徹底
※モノ:D(納期)に対する管理の強化
→調達先の選定・連携強化(Q(品質)・C(コスト)確保)
※カネ・情報:今回の政府対応措置を念頭に、拠点設立にあたり最適立地を検討(再F/S※)※企業化可能性調査


 国家信息中心経済予測部は、中国証券報に「SARSの中国国内総生産成長に与える影響の初期分析」レポートを発表し、その中で、今年通年のGDP成長は予測を1.5ポイント程度下回るとの見解を示している。


 今後2〜3ヵ月流行が継続した場合、国内売上の減少が15%から30%近くまで広がる可能性もあるとの日系企業の見方もある。大手セットメーカーの現地調達先となっている電子部品の中小メーカーは、「納入先がどのような行動を取るかに左右される、取引先が操業停止となれば需要は大幅に減少となるかも知れない。」と述べている。中国国内で取引している大手日系企業の中国国内販売の落ち込みに伴う取引額の減少である。


 このことから、中国国内の日系企業と取引する中小企業にあっては取引先の複数化を図る努力と、欧米系を含めた新規顧客の開拓・新規需要の一層の掘り起こしといった行動が求められる。


 また、「中国国内の他地域での工場の確保や中国以外の海外での生産の調査も行う。」とする企業もある。人件費や部材調達によるコストダウンを主な目的として中国進出している中小企業であって、日本を含め海外へ製品を輸出する企業にあっては今後の危機管理策として継続して近隣の外注先開拓が必要と思われる。一方で中国国内の他地域にある工場、他企業との業務提携・連携、さらにすでに所有する中国以外の海外での生産調整などの課題対応が迫られている。ある企業では、本部機能を中国国内2ヶ所に分割したとの報告もある。


 今回のSARSによる影響は、中国におけるものづくりのリスクを示す形となったが、危険の分散と危機管理対策の強化という課題が提示されたと言えよう。