8月 雑感

 近年、衛星放送の普及に伴い、海外現地でも居ながらにして日本のニュース番組や娯楽番組をほぼリアルタイムで見ることが出来る。かつての現地駐在員先輩諸氏の時代と較べ我々は何と恵まれた環境に在ることか。


 ところで先日、週末に放送されるある政治討論番組の再放送を見た。その中で司会者が日本の産業空洞化問題に触れ、「日本の製造業がみんな中国に行ってしまう」ことの理由として「中国には労働組合が無い。だから賃上げも無く賃金は低水準のまま」だ、と述べていた。が、実際のところ、これは誤りである。誤解の無きよう正確なところを簡単に述べておきたい。


 中国にも労働組合は有る。確かに「社会主義制度の下では企業と労働者との間には利益の対立がない」との建前からすれば、中国における労働組合の存在自体を否定したい気持ちは解らぬでもない。しかし現実には、国有企業はもちろん、外資企業にも労働組合は存在する。


 中国では、労働組合は共産党の下部組織と位置付けられる。よって基層組合の委員選出も直接選挙ではなく、党委員会が関与する。中国における労働組合設立の意義は、いわゆる生産性優先主義に基づく。即ち、組合員の個別利益は企業、国の全体利益達成により初めて得られるとする。よって労働組合は企業と労働者、共産党と労働者大衆の仲介役として機能している。


 因みに、中国では労働組合を「工会」と呼ぶ。現地日系企業は、伝統的にこの「工会」と良好な関係を醸成しているところが多い。欧米企業は労働組合を経営側との対立関係で捉える傾向が強いが、日系企業の場合はむしろ定期昇給、ボーナス、福利厚生問題等の友好的解決に「工会」の果たす役割の有用性を認めるところが多い。「工会」は労使双方の代弁機関として緩衝役を果たしているのである。


 最後に、労働者の賃金について短く触れる。賃金水準は改革開放(七八年)以降確実に上昇を続けていることは統計数値からも明らかである。上海市の例を引くと、九五年から2000年までのこの五年間に国有企業労働者の年平均賃金は6200元(年平均12.8%)、外資企業に至っては8100元(年平均13.2%)も上昇している。よって中国は「賃上げも無く」などということは絶対に有り得ない。しかし、また一方で、中国政府は戸籍移動等の規制緩和措置をはじめ人口流動の円滑化を図っており、「低水準」の賃金は、今後更に長期にわたり継続する見通しだ。