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5月 所感「中小企業経営セミナー」

「あなた方(主催者側のこと)は日本政府の片棒をかついで、中国に進出している日系企業の後押しをし、更に金儲けの手助けをするつもりですか?」


 一瞬、場違いとも思われる発言に我が耳を疑った。先日、青島市で行われた「中小企業経営セミナー」(6月9日(水)〜11日(金))でのひとこまである。3日間にわたって行われたセミナーのうち中国人管理者向けに行われた2日間の延べ参加者は205名。彼らの受講態度は総じて真剣そのものであった。午前9時から始まった講義は昼食時間を挟んで既に6時間に及んでいる。途中たまらず居眠りをする者もひとり、二人と散見されはしたが、それ以外はあたかも塑像の様に身じろぎもせず、教壇に立つ講師を食い入るように見つめ、講義に集中していた。ある者は、一言一句聞き漏らすまいと懸命にメモをとる。また、ある者は、このセミナーに参加出来なかった同僚のためにテープレコーダーを回している。いったい現在の日本人にこれ程長時間にわたり講義に傾注し集中力を持続出来る者がどれだけいるだろうか。名門と言われる大学の講堂内ですら授業中の私語や、飲食の禁止など信じがたい低レベルの注意が恥ずかしげも無く行われていると聞く。


 質疑応答の時間となり、疲労感のなかにもやや張りつめた空気が会場を支配する。先に何名かとのやり取りの後、冒頭の発言があった。


「その証拠にあなた方の事業資金はすべて日本政府が出しているのではないですか?」


 これらの発言によって彼は何を意図しようとしたのか。会社での待遇への不満、あるいは腹いせに、悪態をついたものか。講義内容への不満をぶちまけたと解釈するのか。少なくとも講義終了後のアンケート結果からみて、講義内容そのものへの不満であるとは到底思えない。それにしても、質問をした当人は、平素は日系企業の中国側の幹部として、いささかなりとも地位を得て業務に当たり、このセミナーへもいわば企業内で選ばれた者として参加していた筈である。しかも出席者名は一人一人登録されており、その気になって調べていけばどこの会社の何者であるのかも分かるのである。それは彼自身も分かっている筈である。にも関わらず、日本側が開催したセミナーの、その会場、衆目の前で堂々と、それも一昔前の学生運動のアジテーションさながら言ってのけたのである。外国の政府関連機関が自分達の(あるいは自分達が所属する企業の)ためにセミナーを開催している。そのような状況で、日本人だったら絶対にやらない。おそらくその時会場にいた(中国語を解する)日本人は、そして一部の中国人もきっとそう考えた筈である。異なる国家の国民各々の認識や表現方法の相違だと言えばそれだけなのだが。


 しかし、実は、これはまた、別の意味で注目すべき点でもある。それは、たまさか日中間の過去の歴史的経緯に触れる感情の表白であったとも思えるが、主催者側にとって収穫とも言えるのは、日系企業で働く中国人管理者の本音、歯にもの着せぬ発言を多少なりとも聞くことが出来たということである。このセミナー第一日目(日本人管理者向け)には日本人管理者等も中国人管理者と同様受講者として参加しており、3日間にわたって行われる講演内容については予め現地の要望と調整した上で決定されている。特に、中国人参加者については、事前に日系企業内で仕事をしていく上で平素から問題点としているところ、疑問点等についてアンケートをとり、実際に行われる講義も、主催者並びに講師がこれらを十分に咀嚼した上で実地に臨んでいること、など、いわば参加者等も間接的にはセミナー企画側の一員として、自由な雰囲気で意見を述べられる素地が予め用意されていたとも言える。この結果、このセミナーは、単に知識やノウハウの伝授を行うためだけのものに留まらず、日本人、中国人双方から率直な意見の提起を受け、それらを講義内容に反映させつつ相互の理解の促進を図り、更にお互いを高めていく、即ち、普段遠慮も有り、双方ともなかなか表に出しにくい問題点をセミナーという場を借りて、知識やノウハウの習得を実施しつつ極めて合理的な方法で昇華していくという機能を果たしつつあるのである。勿論これも優秀な講師陣の協力を得て初めて実現可能なことであるのだが。果たしつつあると書いたのは、まだその効果なり手法について改善の余地が有り、主催者側もこの点留意しつつ更に今後も続けて行われなければならないと考えるからである。そして、参加される日系企業は大いにこの機会を利用すべきだと思う。今後、このセミナーが繰り返し行われることにより、企業経営の観点から、日中相互理解の更なる深化と中国中小企業経営の発展に多少なりとも資することが出来るのではないか。今後の展開が楽しみである。


 因みに、青島市で開催された「中小企業経営セミナー」の講演テーマはそれぞれ1日目が日本人管理者向け「中国での企業経営における労務管理のポイント」、2日目が中国人管理者向け「これからの管理者のあるべき姿〜従業員の働く意欲を高める〜」、3日目が中国人管理者向け「品質管理はなぜ必要か〜品質管理を活かせる職場つくり〜」についてであった。

講義風景写真1

講義に集中する日系企業の中国人管理者たち

講義風景写真2

講義風景