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6月 上海市中小企業事情管見

はじめに

 本年6月末時点で、上海市内の中小企業者は約40万社。これら中小企業の生産総額は上海市全体のGDPのおよそ3割強を占めている。そして更に新規就業者全体の7割以上をこれら中小企業が吸収している。


 中国では、一昨年3月、第九期全国人民代表大会において、かつては「資本主義のしっぽ」とまで蔑まれた私営企業が「社会主義市場経済の重要な構成部分」であると認知された。これは、中央政府が、諸外国の例に見て、高い技術力を有する中小企業が活力有る経済構造への転換に果たした役割に注目したこと。更に、経営不振が深刻な国有企業の改革に伴って急増した失業者、一時帰休者の再就職の受け皿として果たす中小企業の役割に期待したこと等に拠る。以来、政府関連部門によって、この私営企業の大部分である中小企業の振興に関する施策が矢継ぎ早に講じられ、中小企業の経営環境の急速な改善が押し進められて来た。


 しかしながら、中国の中小企業の経営基盤は依然として脆弱である。現実には、加速する市場経済の競争原理の下で、ひたすら止むことの無い“起業と淘汰”の繰り返しが行われている。そして、この中でかろうじて生き残り、将来に向けて安定的な経営を確保出来るのはほんの一握り、政府も注目するハイテク関連先進技術を「売り」に将来成長が有望視される企業、あるいは董事長や総経理が旧国有企業等の出身者で政府関連部門に有力な人脈を持ち資金調達には何かと事欠かないタイプの企業が優位となるようだ。


 その他一般の中小企業者は、多くの場合、旧態依然の設備と乏しい人材。日本のような大企業と中小企業との産業連鎖構造が無いため後ろ盾も得られず、まして単独ではなおさら信用も低いため融資を受けることが困難。そのため、新商品、新技術の研究開発、経営体質の改善等、中小企業の成長を支えるこのような試みすら頓挫してしまう。技術力や知名度、自己資金に限りの有る者が、裸一貫から創業し、市場経済の荒波を乗り越え順調に成長を遂げて行くのは非常に困難なことだと言える。それゆえ、中国政府として、このような中小企業者のために資金調達手段を確保、資金調達の機会を増やし、その成長を促すことは、上述の目的を達成し中国経済のボトムアップを図る上で不可欠の要素となる。

上海市の中小企業向け融資

 ここで、上海市の中小企業向け融資の状況について。「上海市小企業(貿易発展)服務中心」金融服務部長李強氏の報告書(2000年8月)から一部引用させて頂く。即ち「1999年の上海市各金融機関の融資総額は6,000億元。しかし中小企業向け融資はこのうち20%にも満たない状況である。特に国有商業銀行は中小企業向け融資が少なく、中小企業専門金融機関である上海銀行だけが総融資率の50%を中小企業向けとしている。この結果、中小企業者の約70%が金融機関からの資金調達が困難だとし、実際に信用保証を得て融資を受けることが出来た中小企業者は全体の僅か5%にしか過ぎない。」とのことだ。

中国経済技術投資担保有限公司

 「中国経済技術投資担保有限公司」(所管:国家財政部、国家経済貿易委員会)は、中央政府によって設立された国家レベルの信用保証機構である。設立に当たっては、わが国はじめ諸外国の信用保証システムが比較研究された由。しかし、現状は未だ全国規模の業務展開はしていない。むしろ各省市政府が各々独自のやり方で試行錯誤を行っているという段階である。例えて言うなら、ちょうど、わが国の1948年から1951年にかけて、全国に次々と信用保証協会が設立されて行った、あの時代と似たような状況ではないかと考えられる。ついでながら江蘇省鎮江市ではUNDP(国連開発計画)のプロジェクトとして信用保証機構の整備が進められている。

上海市の信用保証機構

 上海市の信用保証機構は、大きく2つのレベルに分けることが出来る。 ひとつは、「市レベル」の信用保証機構「上海経済技術投資担保有限公司」(=中国経済技術投資担保有限公司上海分公司)。更にもうひとつが上海市内の各「区県レベル」の「小企業信用担保中心」(名称は不統一)だ。「上海経済技術投資担保有限公司」には、上海市政府財政部が、各「区県レベル」の「小企業信用担保中心」には各区県財政部が、それぞれ100%の出資を行っている。因みに、中国は、現在国家レベルで合計20億元の信用保証基金を有しているという。運用上実施可能となるのはこの基金の5倍まで、即ち100億元が保証可能限度額となる。省、市、区、県等各レベルの信用保証機構は、これら基金を拠り所に中小企業向け融資額の100%の範囲で信用保証が出来ることになっている。


 中小企業者の資金調達問題の解決については、「上海中小企業服務中心」や「上海市小企業(貿易発展)服務中心」、「上海市小企業(生産力促進)服務中心」等の政府系服務機構(サービス機関)も相談に乗ってくれる。以前ご紹介したが、「上海中小企業服務中心」(1998年10月設立)は国家経済貿易委員会と上海銀行との合作。業務の方は、上海銀行が実施している。「上海市小企業(貿易発展)服務中心」と「上海市小企業(生産力促進)服務中心」は「上海市政府経済体制改革弁公室」所管の「上海市促進小企業発展協調弁公室」の下部組織(ともに1999年11月28日設立)である。各々、商業、工業分野の中小企業に対する情報提供、大学・研究所等の施設を活用した技術支援、コンサルティング、法律相談等、総合的なサービスを行う他、中小企業金融機関である「上海銀行」、「民生銀行」と議定書を取り交わし、優良中小企業の推薦を行ない資金調達の円滑化を図っている。


信用保証業務の取扱いは、保証金額により以下のとおり3つのレベルに分かれている。


(1)100万元未満の場合
各区県の小企業信用担保中心が審査、保証することが出来る(ただし実施に当たり案件について上海経済技術投資担保有限公司(市レベル)に報告義務有り)。


(2)100万元以上300万元未満
各区県小企業信用担保中心が上海経済技術投資担保有限公司(市レベル)の審査、承認を経て保証。


(3)300万元以上
すべて上海経済技術投資担保有限公司(市レベル)が行う。


 実務上は、中小企業服務中心等からの推薦が有れば総融資額の100%、「上海銀行」等金融機関からの推薦の場合は、同じく総融資額の80〜90%の範囲で保証が可能。因みに、区県レベルで保証した債務が不良債務化した場合には、市レベルでその10%を負担する場合も有るとの事。なお、「上海市促進小企業発展協調弁公室」は、2000年10月、その内部機構として「上海市小企業総合服務事務所」を設立した。この機関は将来的に協調弁公室のサービス部門を引き継ぐ他、上海市の区県、郷鎮レベルの信用担保中心が実施した信用保証を市レベルで再保証(保証総額の10〜20%を市レベルで保証する)業務を行うために設立されたものだ(再保証業務の詳細は未定)。因みに現在、全国省市レベルで203箇所の信用保証公司が有る。再保証機構は既に全国10省市に有り、一部では既に業務を開始しているところも有る(河南省、山東省、安徽省の3省――市レベルが保証し、省レベルで再保証)。

各区県レベルの信用保証機構

 ところで、政府の主導で設立された市レベルの信用保証機構に対して、各区県レベルの信用保証機構は、どのような経緯を経て成立したのだろうか。上海銀行発展研究部の韓文亮総経理は次のように説明する。
 各区県レベルの信用保証機構の成立は、当初民間レベルで設立された信用保証機関にその起源が求められる。説明に基づきその後の発達段階を簡単にまとめると以下のとおりとなる。


(1)193年〜98年
各区県の私営企業と工商連が共同出資、会員制の信用保証を実施。基本基金は企業側が50%負担。残りは区県財政部が出資。当時上海市全体で15社有った。


(2)98年〜2000年
各区県が信用保証中心を創出。これまで私営だったものはそれらに一本化されていった。


(3)2000年〜現在
市場経済の発展に伴い、担保形式の多様化が要求されるようになった。独立の非銀行担保組織、即ち上海経済技術投資担保有限公司、区県小企業信用担保中心が成立した。なお、郷鎮(県レベル以下の行政単位、日本であれば町、村)レベルでは現在も民間レベルの保証機機関が存在する。

上海銀行

 「上海銀行」が現在、中小企業向け金融の現場において果たしている役割は大きい。上述のとおり「上海銀行」は、数ある金融機関の中でも唯一、総融資率の50%を中小企業向けとしている。その実績、背景を考える際、現在市内に53ヶ所(以前は99ヶ所)有る店舗の数ばかりでなく、「上海銀行」そのものの成立の経緯にも注目する必要がある。現在の「上海銀行」の前身は「上海市城市合作銀行」である。「上海市城市合作銀行」は元々上海市内に数多く点在した中小企業向けの小規模私営金融機関を統合して設立された金融機関だ。もともとこれら私営金融機関は、統合される以前から、市内各所の中小商工業者を顧客として抱えていた。それがそのまま統合されたのだから他の金融機関と比べ取引を通じて得られた個別具体的な信用情報の量も少なくはない。そうした意味で、1998年10月に「上海中小企業服務中心」が設立されるに当たり、国家経済貿易委員会のパートナーとして「上海銀行」が選ばれたのは当然のなり行きであったと言える。
 「上海銀行」は、他の金融機関と異なり単独で中小企業向け融資を実施することが許されている。万が一不良債権化した場合でも、総額の70%については「上海経済技術投資担保有限公司」が担保することとなっている。
 以下は、参考。上海銀行が中小企業に対して融資を行う場合の流れと信用保証機構による信用保証の範囲である。


(1)中小企業(融資申込み)→上海銀行(推薦)→信用保証機構(80〜90%保証)→上海銀行(融資実行)


(2)中小企業(融資申込み)→信用保証機構(100%保証)→上海銀行(融資実行)


 なお、以上と同様の業務取り扱いは、上海銀行の他、民生銀行、工商銀行、農業銀行等、他の銀行でも行ってる。


 因みに、現在、上海市内の私営中小企業者4万社が各金融機関から融資を受けているが、うち8000社は「上海銀行」の取扱いによるもの。基本的に融資の対象となるのは口座を持っている企業、信用情報の解る常連顧客ということになる。

おわりに

 現状、上海市の中小企業者で信用保証機関の保証を得て資金調達が出来るのは、「上海銀行」に代表される中小企業金融機関もしくはその他特定の金融機関に口座を有しており、かつその金融機関と一定期間の取引を通じて財務能力、運営資金、流動性等の信用情報をしっかりと把握することが可能な企業だけと言える。確かに貸付金の残高回収面での安全性を考慮すれば、至極当然、もっともな話であるが、同時に中小企業者は金融機関との硬直した関係に拘束されることになる。中国はここ数年、毎年8%近くの経済成長を遂げて来てはいるが、景気の変動に敏感な庶民等は未だこれを確実、安定的なものとは見なしていないのではなかろうか。従前と比較すれば預金比率も高くなったとは言いうものの、現実には、個人資産のまだまだ多くの部分が市場に出回らず箪笥預金化しているという話も聞く。中小企業者とはいえ家族経営同然のものも多く、財務管理や運営資金に関する基本的な考え方もこの箪笥預金の域をさほど多く出ていないところも有るのではないだろうか。わが国とは異なり、手形・小切手による決済も未成熟で現金決済が基本であるこの国のこと、中小企業、特に小規模零細に至っては、顧客との取引に際しても、必ずしも銀行と恒常的なお付き合いをしているとは限らない。だから、信用保証も得られない、という悪循環が生じる。前述の5%という数字の低さは正にその証左と言える。しかし現実には、財務能力や運営資金状況が必ずしも十分捕捉出来なくても、堅実な経営をし、あるいは優れた発想や技術力等、潜在的成長の可能性を有した中小企業は数多く存在すると考える。


 上海市としては今後、「上海市小企業(貿易発展)服務中心」、「上海市小企業(生産力促進)服務中心」が進めている市内40万社余りの中小企業者のデータベース化を早急に実現し、かつ同じく現在進めている市内20ヶ所余りの区県ごとの支所を結ぶネットワークを通じてこれらデータベースの共有化を図り、更にこれを各金融機関、信用保証機構の信用情報と連動させて中小企業者の資金調達機会の拡充を図って行きたいところ。と同時に、このシステムをより充実した実効性の有るモノとするためには、やはり借り手である中小企業者個々の経営モラルの向上を図ることが求められる。例えば、わが国の中小企業政策、経営改善普及事業、診断、指導事業等に類する事業の実施を政策的に可能とする基盤を整備し、企業性、経営モラルに欠ける中小企業に対する漸進的近代化策を実施する必要性があると考える。金融機関側からすれば経理、財務状況の把握すらまともに出来ない企業に融資を実行するなどはどだい無理な話で、信用保証機構もそのような先の信用保証など出来る筈が無い。手っ取り早いところでは、商工会、商工会議所が実施している「小企業等経営改善資金融資制度」(マル経融資)の手法などは非常に有効ではないかと思われる。もっとも、その更に前段階で、私利私欲に囚われず正確かつ公正な立場で診断、指導の出来る人材の養成が必要となる。