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11月 中国、労働者輸出に乗り出す

「労務合作」と呼ばれるプロジェクトがあります。各種服装紡織品の縫製、機械加工修理、電子計測器・電力設備、家具製造、印刷、工業包装、水産、プラスチック成形、板金、鍍金、溶接、ペンキ塗装、建築、等々、各分野の現役労働力を研修生という形で日本はじめ先進諸国に送り込もうというものです。中国では労働力を輸出するということから「労務輸出」とも呼ばれています。聞くところ山東省や、福建省等一部の都市では既に試行されているとのことですが、上海市ではこの秋、中国国際貿易促進委員会上海市分会が中心となって、新たな業務として、このプロジェクトを立ち上げました。


 この「労務輸出」については、今年10月、朱鎔基総理訪日のおり「国際商報」が公表した駐日中国大使館公使経済商務参事官(呂克倹氏)の論文の中でも次のように触れられています。


様々な協力関係を利用して、研修労務の輸出を拡大する。
「日本経済の歩一歩の回復の後、中小企業の生産活動はいよいよ盛んになり、企業の労働力需要も更に増大する。日本の一部産業の労働力不足のために、外国から労働力を導入することは当然であり、これは中国の労務輸出にとっては良い機会である。この様な研修や学習的要素のある労務輸出は、単に外貨の獲得だけではなく、中国国内に比較的高い技術を持つ熟練工を養成することにもなる。」


 中国の今年の経済成長率は8%を越える見込みであることが先日出版された年次経済青書から明らかになりました。景気の良いニュースで結構なことですが、その背景で、国有企業の改革等にともなう大量の失業者、一時帰休者の存在に係る問題は現在もなお解消された訳ではありません。それゆえ日本の景気回復基調による労働力需要の増大及びそれにともなう一部産業分野での労働力不足は中国側から観察した場合、国内の熟練労働者を海外に派遣、より高い技能を修得させ、併せて国内の余剰労働力を解消させるための絶好の機会として、更に合理的に外貨を獲得するための手段として、正に渡りに船、ビジネスチャンスとして捉えられています。


 一方、わが国国民の高学歴化などにともなう熟練労働力の不足は、わが国産業構造そのものの変革を迫る重要問題であり、特に熟練労働力に頼らざるを得ない工程が比較的多いといわれる中小企業にとっては実に頭の痛い問題です。現状、そのような分野では、既に多数の外国人労働者たちが就業、活躍してくれていることも周知の事実です。しかし、その反面、特に近年において、外国人よる不法滞在、就労、犯罪事件の増加は、先般の石原東京都知事の発言を待つまでもなく、最早看過し得ない実態があるということもまた事実です。しかも、残念なことに、少なからぬ中国籍不法滞在者のそれら事件への関与が既に確認されており、折しもこの9月から日中友好交流の一環として中国人の日本への団体観光旅行が解禁になったというお目出度い話題とは裏腹に、中国人労働者等、個人でのわが国への入国は今だ厳しくならざるを得ない状況にあります。


 ところで、外国人労働力受入れに関しては先輩格ともいえるお隣の韓国では、現在、約20万人の合法的外国人労働者が国内の中小企業等で就業していますが、そのうち約3万人が出稼ぎ(名目は研修)中国人である(今年5月時点)とのこと。しかし現実は、その34%がより条件の良い職場を求めて登録企業から無断で離職するなど、所在が掴めないままになっているとのことです。こうした中国人労働者の離職問題に関して、韓国のある大学が独自に調査リポートを出しています。このリポートは、韓国国内で就労する中国人の離職率が高いのは、韓国人と「中国人ワーカーの価値観の不調和」が原因であるとしています。例えば、労働に対する考え方、仕事への取り組み方について、まず、「韓国人は能動的であり、中国人は受動的である。」とし、「韓国人はどちらかといえば受け入れられた環境に馴染みやすく、チームワーク、グループで仕事をすることを得意としているため、上司や同僚などとの人間関係を重視する。それゆえ、そうした集団の中における個人の努力が評価の対象となりやすいのだ」といいます。一方で、「中国人は何処へ行っても自身(自国)の文化を維持し続け、受け入れられた先の文化、環境に順応しない。しかもプライドが高く、個人プレーを好む。それゆえ仕事をする上でコネ、即ち個人のバックグラウンドを重視する。」といいます。また、仕事の安定性、保証といった観点からは、「中国人の場合、特に仕事上ストレスとなるのは、やはり低賃金の問題であり、韓国人の場合はどちらかといえばそうした問題については個人の運不運、能力の有無といったことから整理することが出来る。」としています。更に、「中国人は超勤を厭わない。やりたい仕事のためであれば家族をも犠牲にするが、韓国人はそうではない。」等々韓国人と中国人との価値観の不調和を構成するポイントを列挙しています。この点、日本人の考え方はどちらかといえば韓国人に近い様にも考えられる訳ですが、いずれにせよ以上の調査レポートは、わが国中小企業が今後中国人労働者の採用を考える上でも示唆に富んだ内容といえます。


 ここで、冒頭の中国国際貿易促進委員会上海市分会が新たに開始したサービス業務(「労務合作業務」)について少しだけ紹介させていただきます。


 同委員会担当者の説明によりますと、労働者(研修生)の派遣契約期間は通常1〜3年ということです。勿論、延長は可能ですが、あくまで派遣行為そのものの延長ということで、一人の労働者については3年間を限度としているもののようです。派遣の対象となるのは主に上海市をはじめ華東地区の熟練労働者とのこと。では同委員会が具体的に何を行うのか、ということですが、日本の受入れ企業側に対しては、身元保証。そして受入れ先企業の要望に合った優秀な人材を責任をもって選出するということです。更に、この労働者を日本に送るための諸手続き、パスポートやビザの取得・申請、派遣前の教育(派遣先国の習慣、言語等)を行います。派遣された労働者の穴埋めは中国国内から労働者を採用、補充します。これにより、国内の余剰労働力の吸収も促進されるという仕組みです。


 では、少々気になるところ、上記、韓国の例でも取り上げられた就業後のジョブホッピングや不法滞在の問題に対しては、何か対策が講じられているのでしょうか。先程の担当者氏曰く。派遣に当たっては、同委員会が、研修派遣労働者から予め平均20万元(日本円で約280万円、中国の平均的月収の約100倍相当)の保証金、あるいは不動産所有権等を保証金代わりに確保し、当該派遣契約の誠実な履行と契約終了後の確実な帰国を促す仕組みを作り上げています。また、委員会の担当者が最低でも年1回、派遣先企業、派遣労働者の訪問調査を実施し、就業上の問題点解決や派遣労働者の生活上の悩み事の解決等、精神面でのケアにも努めるとのことです。万が一委員会のスキームで派遣した労働者が不法に滞在し予定どおり帰国しないなどという事態になれば、中国側がこのプロジェクトに期待した初期の目的も果たせなくなります。上海市でもゆくゆくはこの業務、「国際対外労務合作公司(筆者仮命名)」なる会社を設立し、ビジネスとして本格化して行く構えです。政府(上海市)としても研修労働者の派遣事業の継続と帰国促進は両立させなくてはならない大きな問題なのです。


 いずれにしても、わが国の、特に中国国内にコネクションの無い企業は、この「労務合作」を利用することで、少なくとも独力、一本釣りで人材発掘を実施するよりは確実かつ優秀な人材の確保が可能となり、企業経営上も大幅なコスト(人件費)削減が可能となるはずです。なお、この「労務合作」ですが、中国国際貿易促進委員会上海市分会が直接申し込みを受け付けています。しかし、手続きの円滑な進捗、簡便性を考えた場合には、同委員会の利用と併せ日本国内ではJITCO(国際研修協力機構)のサポートを受けることなども考慮に入れたほうが良いかも知れません。