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第5回 アメリカにみる顧客サービス

 先日、日本からはじめてニューヨークに来られた方が、ホテルのフロントの接客態度が意外なほど不親切で、客としてはとてもガッカリだったことを、嘆いておられました。


 日本から予約を入れたホテルはニューヨークでも比較的高級といわれる部類だったので、当然懇切ていねいな態度で迎えてくれることを期待していたのですが、チェックインのためフロントの前に立っても、アメリカ人フロントレディーは携帯電話で話の最中で、しばらくの間平気で待たされたばかりか、そのことをべつに謝るでもなく、そして、「Welcome to our hotel」 の言葉もなく、さもつまらなさそうな顔で手続きをしたうえで、乱暴にルームキーを差し出した、というものです。


 あこがれのニューヨークではじめて立った高級ホテルのフロントでこんな接客を受けたこの方の驚きとショックには全く同情してしまいます。

ホテルのフロント

ホテルのフロント

 残念ながら、このような体験はアメリカでは日常茶飯事です。


 いくつか例をあげると、


○週末のスーパーマーケットのレジはいつも長蛇の列で、他にも店員がいるのにほかのレジは閉まったまま。これを詫びたり改善する気配は全くないので、「Oh, my God!」とかいいながら、ひたすら延々と待つほかない。


○お店のレジやカウンターで順番を待っていると、ぶっきらぼうに「ネークスト!!」(Next!!)と呼びつけられる。(日本流にいえば「次の方−!」なのでしょうが、とても響きがきつくて、まるでこちらが悪いことでもしている気分です)


○自宅の水道や電気器具などの修理を頼んでも、決めた日に来てくれる確率は5割。


○店舗によっては、商品の陳列が極めてずさんで、あたり一面散らかし放題になったまま。店員が片づける気配は全くありません。


 など、日本の常識のレベルでサービスを期待していると、がっかりしてしまう場面が数多くあります。(日本のハンバーガーチェーン店のあの「スマイル」などは、本場ではとても期待できません。)

靴売り場

量販店の靴売り場

 企業の接客サービスは、直接的にはお店のマネジメントの問題ですが、一般的にアメリカでは、各従業員の担当と持ち場が細分化されているため、「そこは私の仕事じゃない(That's not my job)」と割り切ってしまう態度につながり、トータルなマネジメントがうまく機能していないと、低レベルなサービスに陥りやすい、という点はよく指摘されることです。


 しかし、我々日本人がこういった感覚を受けるのは、それ以前の問題、つまり、アメリカ人の気質・コミュニケーションのしかたが我々とは全く異なっていることや、さらには社会や文化の違いの問題に起因している、というべきでしょう。彼らは顧客のことを、決して「お客さまは神様です!」とは思っていないし、きっとたまたま今出合ったばかりの、いわば「ともだち」くらいの感覚なのでしょう。


 ですから、日本の感覚とモノサシで顧客サービスを期待しているこちらの方が間違っているのかもしれません。


 日本の顧客サービスは、その接客態度のきめ細かさにおいては特筆すべきものがありますが(深々とした「いらっしゃいませ」や、明るい笑顔の接客など)、それも別の感覚で見ると常にベストかというと必ずしもそうともいえません。


 事実、日本で生活したことのあるアメリカ人の方は、日本の専門店で商品を探していると、店員が「これはいかがですか?」「こちらはいいですよ」と、とことんそばに寄り付かれて気味が悪かったと、言っていました。アメリカではお店に入って一人のセールス・パーソンに「May I help you?」と一度だけ聞かれて、「Thank you. I'm just looking.」とかいうと、あとは一人で自由に見て廻れる習慣になっているので、こうやって笑顔一杯にいつまでも付きまとわれて買い物ができなかった、という話には、まったく考えさせられます。

ハンバーガーショップ

おなじみのハンバーガーショップ

 一方、アメリカの顧客サービスが先に掲げたようなレベルのものばかりかというと、まったくそんなことはありません。例えば、シアトルが発祥のデパート「ノードストローム」(Nordstrom:試着を依頼するとピンを全部はずしてワイシャツを試着させてくれる、など徹底したサービスで有名、但しかなり高級)や、「サウスウエスト航空」(アメリカ企業ではめずらしい「家族的経営」のほか、おふざけに近い機内アナウンスや座席上の荷物入れからスチュワーデスが飛び出すユーモア接客などで有名)などといった極上・奇抜なサービスや、ニューヨーク近郊に展開するスーパーマーケット「スチユーレオナルド」(Stew Leonard:従業員が接客サービスに気配りするだけでなく、笑顔で接してくれる客を逆に従業員が選んで表彰する制度を通じて顧客との接近を重視)などの興味ある取組みなどがさかんに行われており、各企業にとって接客サービスを含めたさまざまなCS(顧客満足)活動が重要な経営テーマのひとつであることは疑いありません。


 さて、全米で1,000以上の店舗を展開し、アメリカでは最もポピュラーな書店「バーンス・アンド・ノブル(Barnes & Noble)」の店舗に入ると、プーンと漂うコーヒーの香りに惹きつけられてしまいます。


 この書店の大半の店舗では、店内にコーヒー店(スターバックスコーヒー)が併設されていて、顧客は豊富な蔵書の中から気に入った本を何冊でも取り出し、コーヒーを飲みながら何時間でも試し読みすることができます。


 また、広いフロアにはゆったりしたソファやテーブルがおかれていて、「立ち読み」どころか、ゆったりと座ってじっくり本の中身を確認することができます。


 そして、そこで気に入れば買っても良し、気に入らなければ、そのまま書棚に返して帰ってもOK。なので、辞書や研究書らしきものを運んでレポートを書いたり、パソコンにデータ入力している人も見かけます。


 また、この店では何と、買った本が気に入らなければ、30日以内であればいつでも返品に応じてくれるというから二度驚きです。

 

バーンス・アンド・ノブル内コーヒーショップ

コーヒー飲みながら何冊でも試し読み

 そういうことをしたら、読みたいだけ読んで結局買ってもらえないのでは、本が手あかやコーヒーで汚れて台なしになるのでは、とつい心配してしまいますが、そういう人は全体からするとほんの僅かで、逆にそのような便宜を大らかに提供することによって、本を自分の手にしたくなる意欲が刺激され、むしろ売上が伸びるのだといいます。


 一見、経営にマイナスと思える顧客サービスが、実は真の顧客満足と新たな購買意欲を喚起することにつながる、という興味深いマネジメントの一例であり、顧客サービスが持つ奥の深さを感じさせてくれます。


 インターネットや情報技術(IT)の普及で、ネット販売や通信販売などの新しい形態が生まれ、販売やサービスのスタイルが劇的に変化していくとみられるこれからの時代にあって、中小企業においても、顧客との距離を少しでも縮めることによって真の満足をとらえ、顧客の立場に立った配慮とサービスに徹することが基本であることには変りありません。

バーンス・アンド・ノブル店内

ゆったり座って試し読み まるで図書館