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第8回 現地に明るいスタッフでスムーズなスタートアップ

「Ground Zero」(「爆心地」の意味)と呼ばれるニューヨーク・ワールドトレードセンタービル崩壊現場では、今も不眠不休で瓦礫の撤去が進められています。また、クリスマスを前に、悲しみを乗り越え懸命に街の活気を取り戻そうとしているニューヨーカーたちの意気をあちこちで感じます。そして、未曾有の被害を受けた周辺のビジネスも徐々に復帰しつつあります。
 さて今回は、長年に亘り開発した卓越の技術をアメリカ市場に投入しているペンシルベニア州の日系企業『Ito Denki USA, Inc.』を訪問する機会を得ましたので、その事業展開ぶりをレポートします。
 『Ito Denki USA, Inc.』は、兵庫県加西市に本社をおき、コンベア駆動用のモーターローラ及びモータープーリを製造している『伊東電機株式会社』(社長:伊東一夫氏,従業員約150名)の米国現地法人(1997年4月事業開始)で、本社製品をアメリカのコンベアメーカー(約250社)に納入しています。

ロックフェラーセンターのクリスマスツリー(今年のイルミネーションは赤・白・青の星条旗カラー)

ロックフェラーセンターのクリスマスツリー(今年のイルミネーションは赤・白・青の星条旗カラー)

 同社が取り扱っている小型モーターローラ(商標「パワーモーラ」)は、モーターと減速機を内蔵したコンベヤの駆動ローラで、省スペース・省電力・フレキシリビリティに優れた同社の会心の製品です。
 同社の取扱量の約7割は本社から完成品として輸入、残りの3割は半完成品を同社の工場で組み立てて製品化(ノックダウン)しており、いずれもMade in Japanのコンベア部品として、全米の各種工場や物流センターなどのコンベアで活用されています。

『Ito Denki USA, Inc.』社屋

『Ito Denki USA, Inc.』社屋

 ことに、アメリカの郵便物を一元的に扱うUSPS(米国郵政公社)のシカゴ・オヘア空港エアメール・センター(全米でも最大規模)への同製品の導入に成功し、大きな成果を収めることができました。同センターでは、郵便物の仕分け搬送システムにおいて、(1)騒音が多い、(2)メンテナンスに多大な時間がかかる、といった問題をかかえており、その解決策として、同社の「パワーモーラ」が提案・採用されました。導入の結果、1)センター全体の稼動効率が大幅に改善、2)電気代や保全費などの稼動経費が劇的に減少、3)設備の騒音レベルが大幅に低下し作業環境が改善、といった顕著な改善がもたらされ、これを納めた同社としては大きな信頼とステータスをかちとることができました。この成功を武器に現在では年間630万ドルと本社の1/3を売り上げ、グループの大きな機動力となっています。

パワーローラの活用例(同社のHPより)

パワーローラの活用例(同社のHPより)

 ところで、同社が当地で事業を開始したのは1997年4月。欧州・中東・アフリカをカバーするフランス現地法人(1987年開設)に続き、それまで代理店契約を通じて展開していた米国向け事業を現地法人に移行するという本社の方針のもと、ペンシルベニア州ウィルクスベア(Wilkes-Barre)にある民間の産業用地(Hanover Industrial Park)内の建物を確保、アメリカの巨大マーケットに本格的に進出する拠点として設立されたものです。この地を選んだのは、総代理店のあったニュージャージー州に近く移行に取り組みやすかった、ペンシルベニア州の中でもレイバー・コストや物価が比較的安い、ということだったようです。
 当時合計4名のスタッフで設立した会社も、5年目にあたる現在では従業員数が合計15名。日本人3名(山口副社長と本社派遣の2名)と現地スタッフ12名(製造部門5名、セールス部門3名、カスタマーサービス3名、経理部門1名)が、1万5千スクエア・フィート(約1,300m2)の事務所兼工場兼倉庫で従事しています。

ペンシルベニア所在地

ペンシルベニア所在地

 実質的に同社事業を立ち上げてきた山口副社長(Executive Vice President)は、実は親会社での勤務経験はなく、米国事業展開の責任者としてリクルートされた経歴をもつ方で、別の会社での駐在員生活(米国西海岸で10年弱)や海外事業部門の経験を通じた語学力と専門知識を生かして、米国事業展開を軌道に乗せた立役者です。
 現地従業員の採用・教育や労務上の問題など、通常どの企業もぶつかる現地法人のマネジメントの問題は3〜4年でたいていのことは解決された、といいます。「地道かつ堅実に」という伊東社長のモットーのもと、ほとんどの部分を現地に任せ現地の声を理解してくれたこと、現地のビジネス慣行やマーケット事情に詳しい米人スタッフ(現セールスマネージャー:日系企業での勤務経験あり)の存在、が新会社のスタートアップを支えてくれたそうです。当時を振り返って山口副社長は「立上げ段階での現地事情に詳しいスタッフの存在が不可欠」と語っています。
 ことに、従来の総代理店の役割を現地法人に移行するに際し、契約上の難問が多く大変苦労したのですが、取引慣行に明るい現地スタッフとの連携で何とか乗り切ることができたといいます。

工場内風景

工場内風景

 本社との関係も、たいていのことは事実上現地に任されており、小回りよく現地をマネジメントできるメリットをフルに生かした運営が実現しています。
 モーターローラの市場そのものはまだまだニッチの分野で、「この先も工場・集配センターなどあらゆる現場でモノを動かすこと自体はなくならない」ため、同社の製品とコンセプトをもってすれば、この事業も大きなポテンシャルを有していると思われます。
 同社では、さきのUSPSでの信用を大きなバネにして、今後はオハイオ州やデトロイト・シカゴ近辺に新たな拠点を設け、米国の巨大マーケットにさらなる販路拡大を行っていく計画がまた進行中です。

山口副社長

山口副社長