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海外展開の視点

タイ自動車関連産業動向と中小企業進出のポイント

国際化支援アドバイザー 佐々木 明

タイ自動車業界全体の現状

佐々木自動車

 近年タイでは、トヨタ・ホンダなどの日系企業をはじめ、GMやBMWなどの各国の自動車メーカーが多数進出しており、「東南アジアのデトロイト」という通称がつけられるくらい自動車関連企業の集積が急速に進んでいます。ここでタイ自動車業界の現状について簡単にご紹介致します。

 2007年1〜9月のタイの自動車生産は、前年比3.7%増の93.3万台で輸出向けは50万台でした。 (因みに、自動2輪車の生産台数は7%減で247万台でした。)また、国内での同累計新車販売台数は45万台強で、前年比7.6%減でした。

 タイと日本の自動車関連市場規模を『自動車保有台数』・『中古車市場』・『ガソリンスタンド数』等を指数として比較すると、タイは日本のおよそ10%程度の規模といったところです。日本の自動車保有は8,000万台弱、中古車で900万台弱、カーリース件数では300万台弱と上記と比較すると桁違いの状況にあります。

 近年タイへの生産拠点の集中が著しく以下の如く世界の大手が一通りタイに拠点を構えています。

生産地名 自動車メーカー 製造車種タイプ
AYUTTHAYA HONDA
CHACHOENGSAO TOYOTA 乗用車
ISUZU
SAMUTPRAKARN TOYOTA 事務・商業車、SUV
ISUZU
SIAM NISSAN
RAYONG AUTO ALLIANCE (MAZDA)
GENERAL MOTORS
BMW Manufacturing
                                             (資料)筆者作成 

 また、2009年の稼動予定でFORD・MAZDAの合弁企業の進出も決定しています。

 以上のように世界の大手自動車メーカーが進出する中で、当地の自動車業界は相当のスケールでの伸張が見られ、保有台数で3%、金融リース、保険業界の伸びも10%強程度を見込んでいます。

 2007年9月にはISUZUがインドでバスの製造をスタートさせており、自動車業界全体とし、今後タイを自動車の基地・センターと位置付け、インド・中近東を見据えた戦略、展開が益々加速するものと期待されています。

【タイヤ、ブレーキ業界】
 タイヤ業界の大まかな販売状況は (1)ブリヂストン=約100店舗 (2)グッドイヤー=約100店舗 (3)ミシュラン=相当数に上る (4)横浜ゴム及び住友ゴム=20〜30店舗。また、小売関係では、約2,000店舗、修理、交換部品=約4,000店舗、自動車修理=約1,000店舗で以上の市場となり、金額で約300億バーツです。タイヤの販売量は約1,000万本と市場は大きく成長しています。(小売関係には修理関係約300店舗が含まれます。)

 タイヤ、ゴム関係各社にても、上記自動車会社の動向を踏まえ 、一層の拡充が迫られ、各社各々計画中であり、また上記に関係する中小企業においても競争力アップのため、日本より何らかの形でタイ及び近隣諸国へ進出すべく、検討中である企業が多いです。

 ブレーキ関係各社に関しても約10社が既に進出して来ており、日本の大手ブレーキメーカーもTOYOTAの近くに工場や研究部門を構えている企業が多いです。

【金型業界及びタイの中小企業の動向】
 最近の統計では、日系金型関係は約150社、内訳は
(1)DIE & MOULD=110社、 (2)MOULD SURFACE TREATMENT=7社、 (3)MOULDING  PARTS=31社 で当初の進出経緯よりPRESSが多く見られるが、最近ではINJECTIONも増加して来ています。

 タイでの金型育成プロジェクト5ヵ年が17億バーツの予算の下にスタートし、自動車、電機、電子産業の裾野産業としての“金型”に期待も大きく、政府も力を投入して来ています。
 よって、この分野での“中小企業”の進出、役割も益々大きく成ってきており、期待される1分野であります。

 タイは、日本のように明治以来の産業発展と共に長い歴史と道程を歩んで来ているわけでなく、いきなり最新の技術が導入されるという過程の中で農業国より工業国へ歩み出そうとしているだけに、熟練された技術、経験を要求される分野には弱いという事が言えます。

 なお、2007年1〜6月の金型輸出は、約40億バーツで前年比7%増でした。自動車関連メーカーは、10〜30人の従業員の中小規模で約800社あり約2万人が働いています。   

日系企業の経済環境

佐々木風景

 タイには以前から、自動車関連企業のみならず多くの日系企業が進出しており、現地で積極的に経済交流を行っております。ここで、日本人商工会議所とタイの投資委員会について簡単にご紹介致します。

1)日本人商工会議所 :1954年9月設立=日系企業の経営基盤の強化を目的としています。
会員数は現在(2007年時点)約 1,280 社
 業種別内訳は(1)現地製造=630社 (内 自動車関連=211社)、(2)製造業者駐在員事務所=23社、(3)土建施工=72社、(4)船舶運輸=68社、(5)金融、保険、証券=48社、(6)広告、印刷、書籍=26社、(7)旅行=20社 であり、自動車関連企業の多さには目を見張るものがあります。
 日々の活動とし、各部会(現在15の業界)と委員会を中心に活発な活動を行っています。

2) BOI (投資委員会:The Board of Investment)  
 -委員会の設立目的は内外の投資促進並びに、個々の奨励企業に対して税制面・非税制面の優遇措置を付与し、輸出促進、裾野産業育成、産業の地方分散、インフラ開発、新技術の導入、環境保全改善等を図ることであり、それらに資する事業に対し奨励策を展開しています。

 (1)認可金額は1〜9月(2007年)の実績で前年比倍増の5,366億バーツとなり、件数も1,017件で99.5%の増加、即ち資本金で1,033億バーツ(前年=423億バーツ)でした。 日本は158億バーツ(前年=78億バーツ)と欧州=36億、アメリカ=43億、シンガポール=38億を大きく引き離しています。

 (2)今後の奨励対象としては、a.農産物及び同加工品 b.金属製品、機械、輸送機器 c.電気、電子等の7分野160業種の投資戦略を見直し、海外からの更なる投資を必要とするa.自動車、b.電子、c.石油化学、また多くの問題を抱えるd.農産品等に関しては優遇措置を充実させるといっています。あわせて今後益々中小企業の裾野対策が必要となってくるでしょう。

【タイの大型プロジェクト】
 自動車関連業界ばかりではなく、タイの大型投資プロジェクトに多くの日系企業が参画しています。
発電所建設関連では、20008〜10年にかけて4つの発電所の建設が予定されており、日本の大手商社やメーカーの参画が有力視されています。プロジェクト予定総額は640億バーツ、出力2,800メガワットとなっています。

 独立発電業者(IPP)では、日本の電力会社や大手商社が地元電力会社とチームを組んでプロジェクトとして名乗りを上げ、EGAT(タイ発電公社)向けに計画され、受注活動に努めています。

 また、原子力発電所の建設が2021年に向けて計画されています。

 バンコクでもタイ国鉄の鉄道整備計画の2路線目建設が閣議決定されました。(予算額600億バーツで2012年完工予定です。)

【日―タイ協定と今後の動向】
 日本とタイの間では2007年11月1日に経済連携協定(EPA)が発効し、農産物を始めとする両国の貿易、投資の拡大が更に期待されます。

 特に、自動車や電機等の日本メーカーは、東南アジア諸国連合(ASEAN)域内の関税撤廃やタイがインドや中国等第3国と結んだEPAを活用するため、タイ拠点を拡充中です。
 タイとのEPAはアジアではシンガポール、マレーシアに次いで3カ国目で他域を含め5カ国目です。
これにより自動車部品の関税は5〜7年後に撤廃され、鉄鋼も10年後に撤廃となります。日本とタイ間の貿易額は2006年には4兆6,000億円超で、他EPA締結国5カ国の中で最も大きいです。

 以上より大手各業種メーカー、またその外注先である多くの中堅企業は今後益々ビジネスチャンスを求め拡張、拡充、進出等検討中です。

【日系企業の進出概況】
 日系企業は現状中国・ベトナムへの進出が多く、今後はインドへの進出が多くなると思われますが、将来の南アジアや中近東他への展開を踏まえ、上述の自動車、電子、電気関係の他に建設、運輸等の分野でも、東南アジアの中心拠点としてタイは益々充実して来ると思われます。タイの拠点としての役割としては情報収集や日本との戦略的交流拠点としてであり、大企業をはじめ中堅企業や小・零細企業にとってもその組織・戦略上の重要性は増し、今後も企業の進出は継続すると考えられます。

タイの経済状況

 世界銀行の発表では、タイのビジネス環境は178か国中15位で、19位→18位→15位と年々順位を上げてきています。
なお、日本は12位でした。同調査による上位10国は順に、シンガポール、ニュージーランド、アメリカ、香港、デンマーク、英国、カナダ、アイルランド、オーストラリア、アイスランドの各国でした。

 但し、タイ経済成長率は今ひとつであり、タイ=4.3%(前年=4.6%)、インドネシア=6.3%(6.4)、マレーシア=5.7%(5.9)、フィリピン=6.7%(6.2)、ベトナム=8.3%(8.2)とASEANで最も低かったです。

 タイの最低賃金は都市近郊で194バーツ/日と上昇しています。一般家庭の世帯当りの収入は、2007年上期で1.9万バーツと6.5%増となっています。

 2001年に行われました国家統計局のタイ商業・サービス業(行商を除く)に関する調査によりますと、企業数の合計は164万1,250社で、その地域的内訳は?@バンコク首都圏、パタヤ及びその近辺の地方中心都市部で81万2,045社、?A地方中心都市部の外に拠点を置く企業数で82万8,305社でした。製造業と同様に、これらの企業の99%に当たる約162万4,840社が中小企業でした。

          ■ タイ進出へのアドバイス ■

 中小企業に於ける海外進出の可否ポイントとして6点列挙します。

1. 日本での取引の有無
進出時に日本またはタイで相手の会社と既に取引が有るのかどうか。

2.現地工場、オフィス設立予定地の環境
自社派遣員の通勤、生活圏並びに現地従業員の確保、当然以上を含む全体コストを把握します。

3. パートナーの選定、確認
“国際結婚”は何れにせよ難しく、全てに良い事等無いと認識し、現地企業と提携する目的優先順位をはっきりさせます。

4. 税制、税法のチェック
日本とは異なると本社側で認識し、何らかの形で社内意思統一しておく事が望ましいです。

5. 自社派遣員の事前の教育、訓練
経済、政治、文化風土、慣習等の概略レクチャーは“べからず”集とし一通り知っておく事が、現地着任後のトラブルを防ぐ為に役立つと思われます。

6. 優秀な日本人人材の派遣
会社を代表する責任者として派遣する以上、出来得る限り優秀な人材を派遣する事が必要な事であると思われます。

 つまり、成功例としては、日本での取引の延長線上で当地に工場、オフィス等の拠点を構えるというのが理想であり、具体的には (1)優秀な現地責任者が、現地従業員との調和の中で、日本側本社とのコーディネートの役割を果たし (2)日本側本社の精神的、物質的バックアップのもとに (3)現地責任者としある程度の決定権、自由裁量権を持って (4)本社が全てコントロールしようとせず、現地が独自性を発揮し楽しく、活発に運営して行く事が挙げられます。

 ただ、日本側本社並びにタイの現地側相互が、海外に拠点を構えそこで働く以上、多少の無理、無駄と大いなる忍耐を強いられるのは当然であると覚悟すべきでありますし、当然、その反対が失敗例の一例として考えられます。上手く行っている企業、会社の理由は極めて簡単なものかも知れませんが、失敗した企業の反省点は多く、種々挙げられることでしょう。これらを十分に検討し、各企業がたとえ時間を要するとしても、文化、習慣、考え方の違いを乗り越えて地元に密着し、大きく進出企業として発展して行く事を期待します。

          ■ 海外展開のお役立ち情報 ■

タイの制度等に関する情報
 前述のBOIによる制度が中心でありますが、その他にも中小企業基盤整備機構(SMRJ)並びに日本貿易振興機構(JETRO)もタイ進出の日系企業の支援を行っております。 別途、国際交流基金バンコク日本文化センター、 国際協力機構(JICA)、 国際観光振興機構(JNTO)、 タイ国元日本留学生協会、 泰日協会、 泰日経済技術振興協会、 海外技術者研修協会(AOTS)、 日本学術振興会バンコク研究連絡センター、 国際協力銀行(JBIC)、 海外貿易開発協会(JODC)等様々な公的機関が整備され、日本とタイとの間の文化、技術交流、研修窓口、企業進出、留学等の相談を行っています。また、早稲田大学の関連施設もあり、研修、日本への留学相談等も行っています。

 タイの生活等に関する情報
【日本人社会の現況】
 タイでの、日本料理・飲食店はざっと700店と言われ、世界でも有数の一大“日本人街”の様相を呈しています。

 商工会議所登録会員で約1,280社、日本人会会員は約1万人です。また、推定では常時滞在する日本人は4万人、日系企業が約7千社弱、当日当りの在タイ日本人として5〜7万人とも言われる大規模日本人社会になっています。

 最近のタイ観光庁(TAT)によると2007年1〜8月にタイを訪れた日本人は83万人で外国人トップ(全体で935万人)であり、依然日本人のタイへの愛着は強いと言えます。

 また、英調査会社によると 『駐在員生活費ランク』では、世界128カ国300都市の中で、バンコクは168
位(アジア39都市で18位)にランクされています。
 因みに、アジアトップは、ソウルの世界7位で、次に東京(同13位)、横浜(同18位)、神戸(同27位)であり、物価、消費財等の生活面では比較的暮し易く、小中学生の子供のいる家庭にはお薦めです。
医療設備、技術、また保育園等も充実しており、若年夫婦にも適応し易い環境整備がなされています。

 なおこのような状況の中で現在の日本人学校(創立は1926年で、現在の生徒数は小中学校合わせて 2,400名という世界有数の規模)とは別に、最近発展しつつあるSIRACHA地区にて別途分校を開設する事が決定し、2009年4月より最終的に350人の生徒を見込んでいます。

タイ王国 (Kingdom Of Thailand) の概略
国土面積    約51万4,000k?u (日本の約 1.4倍 = およそフランスと同じ)
人口       約6,400万人
GDP       約7兆8,000億バーツ強、1人当たりGDPは12万バーツ程度
輸出伸び率  前年比11%強
輸入伸び率  前年比3%弱
輸出相手国  アメリカ(16%)、日本(14%)、中国(9%)、シンガポール(7%)、香港(6%)、
マレーシア(5%)
輸入相手国  日本(23%)、中国(10%)、アメリカ(8%)、マレーシア(7%)、アラブ首長国連邦(5%)、
シンガポール(5%)
好調な経済状況から東南アジアの“優等生”と言われています。

2007年は1887年(明治20年)に『日タイ修好条約に関する宣言書』が東京で調印されて120周年でした。

(注) タイバーツ=3.5円で換算
    記載データは2004〜07年に基づく 

国際化支援アドバイザー
佐々木 明(ささき あきら)
佐々木 明国際化支援アドバイザー タイ合計 10年在住  1992〜97、2002〜現在

(経歴)
1948年 大分県津久見市に生れ、1972年 早稲田大学を卒業。
1972年 東京にある化学品商社入社後、1992年 同社タイ駐在事務所長とし赴任。1993年 タイ企業(可塑剤メーカー)と合弁企業設立し、役員就任した。 
2001年 メーカーに転職し、2002年 同社合弁メーカーに副社長としタイに赴任した(日本人1人:社長はタイ人でタイ従業員は200名)。 
2003年 同社退職後、上述のタイ企業グループと合弁商社を設立し、現在まで同社社長として勤務。

(得意分野)
販路拡大・営業、マーケティング、新規事業立ち上げ、経営指導、生産管理、人材育成、通訳・コーディネーター、業界情報提供(産業全般、特に化学品、合成樹脂)
(2008年5月 掲載)
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