海外展開の視点

実務経験のある国際化支援アドバイザーの視点で、中小企業の海外展開に必要とされる実務情報を掲載しています。

米国法務トラブルの予防策

国際化支援/海外販路開拓支援アドバイザー 辻本 希世士

ウォール街ミニ

 「米国は訴訟社会である」とは、よく言われることです。そんな米国で現地企業とトラブルになると、法律上の観点から、ありとあらゆる理論と方法で攻撃を受けるリスクを負い、法務トラブルの対応に追われて販売展開どころではなくなります。そこで今回は、米国に進出した中小企業が経験することが多い法務トラブルと、当該トラブルを回避するための予防策を中心に紹介します。  

せっかく販売できたのに代金が回収できない…

 苦心して市場開拓を進め、ようやく米国企業に製品を販売できたと思っていたところ、数カ月たっても代金が支払われない、というケースが生じることがあります。代金を確実に回収することは初歩の初歩であり、企業にとって最も重要なことでもありますが、代金回収にまつわるトラブルを回避するには以下の二つの方法があります。

 

ドル

【1】売掛金を作らない
 代金未回収のリスクを完全に回避する最良の方策は、売掛金を作らないことです。代金を先払いとすれば売掛金は発生せず、代金が未回収になることもありません。「納品した商品に対して約束した代金を支払ってもらう」というのはあまりにも当然のことですが、こうした発想を持って、代金の支払い時期を取引相手の米国企業と真剣に交渉しない中小企業は多いように思います。もちろん、納品を受けておいて代金を支払わないなどということは、場合によっては詐欺に該当するような行為ですが、被害にあってから損害を回復するのは並大抵のことではありません。初歩的なことだからこそ、すべてを先払いにするのは無理でも、信頼関係が構築されるまでの間は半額を先払いにするなどの努力をすべきであり、その価値は高いと言えます。
 また、日本から製品を輸出するような場合には、信用状(L/C)の利用も積極的に検討すべきです。L/Cを利用すれば銀行を通じて代金が決済されますので、代金未回収のリスクはかなり軽減できます。買い主となる米国企業にとっても、製品を受け取れないリスクを軽減できますので、先払いよりは応じてもらいやすいかもしれません。

 

【2】トラブル発生時の「ルール」と「土俵」を有利なものにしておく
 代金未回収の場合、最終的には相手方の米国企業の財産を差し押さえてでも回収を図ることになりますが、米国企業が日本に財産(預金や不動産など)を保有していなければ、米国の裁判所で差し押さえの手続きを進める必要があります。差し押さえの開始前に、勝訴判決やそれと同等の効力を有するものを取得しておく必要がありますが、契約時の工夫でこれらを取得しやすくできます。
 国際取引においては必ず、契約に関連して生じた紛争をどこで解決するかという「管轄」と、契約の解釈などにどの国の法律を適用するかという「準拠法」を契約時に決定します。そこで、「管轄」を日本の裁判所、「準拠法」を日本法とすれば、日本というホームで、かつ自分たちのルールで戦える訳です。
 もちろんこれは、こちら側で一方的に決められる訳ではなく、契約を締結する際の交渉事項となります。しかし、このことを意識しておけば、米国企業が「管轄は米国企業が所在する州の裁判所とし、準拠法は同州の法律とする」といったひな形を提示してきても簡単にサインすることなく(こうしたことを意識せずにサインしてしまう中小企業も多いように思われます)、たとえば、管轄については双方のホームでない第三国とし、紛争解決手段としては「訴訟」ではなく「仲裁」とするよう交渉する余地も生じるでしょう。

 

 代金回収リスクを軽減する手段は他にも考えられますが、以上の二つは国際取引における最も基本的な事項です。ぜひとも意識しておいていただきたいと思います。

警告書が突然やってきた!

ウォール街

 米国市場に自社製品を流通させることができたと思った矢先に突然、知らない法律事務所から「貴社の製品は当社の特許権を侵害している。直ちに販売を中止し、過去の販売実績を明らかにせよ」などといった内容の英語の通知文が届くことがあります。また、日本でずっと使用していた商品名(ブランド)が、まったく知らない米国企業の商標権を侵害しているとして、同様の通知を受けることもあります。要するに、せっかく開拓できた米国市場で自社製品が販売できない、商品名(ブランド)を変更しないといけない、過去の販売実績に応じて損害賠償を支払わなければならない、という可能性を突然知ることになるのです。

 

 こうしたケースでは、任意の話し合いで決着がつかない場合、米国企業から民事訴訟を提起され、米国で特許権や商標権の侵害訴訟の被告になりかねません。そうなると訴訟の手続きはすべて英語で行われますし、長期間にわたることも多々あるうえ、現地の弁護士費用を負担する必要もあります。万が一敗訴してしまうと、上記の可能性が現実のことになりますし、特に損害賠償訴訟については原告の米国企業が負担した弁護士費用や、米国特有の懲罰的損害賠償(punitive damages、加害者の行為が悪質と認められる場合、罰則の意味を込めて被害者が現実に受けた損害額に上乗せした金額の支払いを命じること)という莫大な負担を強いられることもあり得ます。こうしたことを避けるためには、どうすればよいでしょうか。

 

【1】まずは調査を
 米国の特許権や商標権を侵害していないかについては、まずは調査することが重要です。米国特許商標庁(USPTO)のホームページ(http://www.uspto.gov/)で登録済みの特許や商標を検索できますが、中小企業の場合は日本の特許事務所などを通じて調査してもらうのが現実的でしょう。自社の製品と似た特許や、自社の商品名(ブランド)と類似した商標が見つかった場合、現地の特許事務所などに侵害の有無の鑑定意見などを依頼し、必要に応じて変更すべきです。調査や鑑定依頼には一定のコストがかかりますが、リスク軽減のために不可欠のものと考えるべきでしょう。なお、米国の特許法や商標法は特殊なところがあるため、USPTOへの登録の有無を調査しただけではすべてのリスクを回避するには至りませんが、相当程度軽減できることは確かです。

 

【2】できれば出願を
 調査の結果、特許権や商標権の侵害リスクが少ないと判断できた場合は、米国でも特許や商標を出願しておくことをお勧めします。特許については、当該製品が日本ですでに販売済みであるような場合は米国では出願できませんが、日本での出願内容を基礎として米国で出願することが可能な場合もあります。米国で特許や商標を出願しておけば、少なくとも出願日以降に同じものを発明したとか、同一または類似の製品に対して同一または類似の商標を使用し始めたという米国企業が出現した場合に、同企業の特許や商標を侵害したと評価されるリスクはなくなります。また、米国において他社に対して特許権や商標権を行使できる余地や、ライセンスを付与してロイヤリティを得られる可能性も生じます。

 

 このように、特許や商標などの知的財産権に対する意識が非常に強い米国においては、知財戦略は防衛・攻撃の両方の意味で非常に重要です。

 

おわりに

 中小企業が米国進出する際には、他にも多くのリスクが生じ得ます。たとえば、米国の最終消費者から、製造物責任法や消費者保護法に基づく各種法的手続きを提起されることは頻繁にあります。実際に、「よくわからない行政機関から『貴社の製品につき消費者から訴えがあったので回答するように』という内容の英文の通知が届いた」という中小企業の話を先日聞いたばかりです。また、米国に現地法人を設立する場合は、雇用する従業員とのトラブルにも備えておく必要があるでしょう。

 

 このように見てくると、米国ビジネスにおけるリスク面のみが強調されていると思われるかもしれません。しかし上述の特許権や商標権の取得に関する事例のように、法務はリスク対処だけではなく進出のための武器にもなり得ます。まずは法務トラブルの予防から始め、「米国の法律や制度を市場開拓の武器としても使いこなすぞ」というくらいの意気込みを持って積極的に取り組めば、違った観点からの米国での販売展開のヒントが得られるかもしれません。

国際化支援アドバイザー

国際化支援/海外販路開拓支援アドバイザー辻本 希世士

辻本 希世士(つじもと きよし)

1973年生まれ。弁護士、弁理士、ニューヨーク州弁護士。米国ロースクール留学中に、知的財産法や国際取引法などを履修。現在は法律特許事務所所長として、国内外の特許・知的財産や各種商取引に関する訴訟・交渉その他の業務を取り扱う。また、大学客員教授として、産学連携に関する問題などにも取り組む。社団法人関西経済同友会、公益財団法人関西生産性本部会員。

(2012年1月 掲載)

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