海外展開の視点

実務経験のある国際化支援アドバイザーの視点で、中小企業の海外展開に必要とされる実務情報を掲載しています。

中小建設業の中国進出

国際化支援アドバイザー 杉本 久雄

  建設業は技術を提供するサービス業であり、少ない資本で容易に海外進出できると思われる中小企業も多いでしょう。ましてや日本の建設事情も先細り感があることから、最近の北京や上海の建設ラッシュの報道や、身近にいる中国人留学生や建設関係者などから現地の情報を見聞きして、隣国であり身近な中国への進出を考える建設業者は少なくありません。その反面、中国進出後の現地でのトラブルや経営的にダメージを受ける例も耳にします。そこで今回は、中国の建設事情や進出に際しての注意点、進出事例などを解説します。

中国の建設事情

【1】就労人口と賃金

内装大工作業

 日本でも最近まで全就労人口の約8%が建設業に携わっていましたが、中国ではその比率は20%に達すると言われています。建設労働者の大部分は、中国労働者の中で最も多い「民工(ミンゴン)」と呼ばれる農民で、土地のない農民の子どもが職を求めて建設作業員となる場合が多いようです。

 賃金の相場は、最も低い片付けなどの土工が900円/日、大工などの技能工が3000円/日、ベテランの現場技術者であれば4000円/日くらい、と一般工場労働者に比べて高い水準にあります。このため、専業農民が建設業に流れるケースも多いようです。

【2】建材・機器などの価格

 中国では、日本のJASやJISのような品質規格や、建築基準法による不燃材・準不燃材の規格、各種協会による品質保証認定制度が整備されていないため、小規模な工場で製造された粗悪品も少なくなく、価格にもバラツキがみられます。中でも品質の優劣差が大きいのが電気機械製品で、価格も、埋め込み寸直径250ミリの天井換気扇で900〜6000円/台といった差があります。木材、セメント、レンガなどの単価は日本の3分の1から5分の1くらいですが、鉄・銅などの金属製建材の価格は日本とさほど変わらず、同一品質ならば日本の方が安いことも多いようです。したがって、建材や機器については、大規模な工場で製造した製品か日本から直接輸入したものを選定するのが無難といえるでしょう。

 建築物の建設単価は日本の3分の1から6分の1が一般的です。中国人は、工場・店舗など経済活動用の建物にはあまりお金をかけずに2〜5年で建設資金を回収できる程度に抑える一方で、自宅やホテルなどのプライドを誇示するところにはお金をかける傾向があります。

【3】工事受注

工場建設鉄骨粱組立て作業

 中国を含めた海外では、「ゼネコンに任せればすべてやってくれる」といった日本的な一括請負のシステムはありません。中国では技術的問題などについては、設計院(設計会社)が工事業者以上に権限を持っています。また、工事受注は規模にかかわらず紹介などの人脈によるところが大きく、時には工事完了後の入金時期も人脈によって左右されます。そのため、営業・工事の段階での発注者や役所との関係構築は重要です。

 中国では、当然のことながら日本的な「あうんの呼吸」は通用しませんので、工事を受注する際には契約書・設計図書・見積り書などの書類に細かい点まで記載する必要があります。具体的には、工事中の保険(火災、盗難、労災、第三者賠償用)、インフレによる建材費高騰への対応、労働者の宿舎の確保、メンテナンス期間、光熱費・水道代の負担の明示、サンプル、カタログによる建材の決定、詳細図の作成などについて記載しておくとよいでしょう。


表1.中国の建設業の特徴と対応策

  1. 中国は建設工事も多いが、建設業者も多い(=競争が激しい)
    →建設作業員は専業者が少ないので、よい協力業者を選ぶ
  2. 建材・機器の品質や価格は玉石混淆
    →ステンレス・樹脂・鉄・塗料・木材など素材の品質、機器類の性能を見分ける能力が必要
  3. 受注や工事完了後の入金時期は人脈により大きな差が出る(建設・消防などの行政許認可も同様)
    →発注者や役所との関係構築は重要
  4. 建設技術は日本の昭和30〜40年代(1955〜1974年)の水準と考えられる。建設工法、建機、水処理、機器類は欧米の技術・製品が多い。
    →日本の技術・製品は欧米のものに比べてコストが高いので、低コスト化の研究が必要

進出に際しての注意点

 中小建設業者や建設業にかかわる個人が中国に進出するきっかけとしては、以下のようなケースが多いようです。

(a)日中建設関係の交流会などでパートナーを紹介され、現地に合弁企業を設立
(b)身近な中国人留学生などのつてがあった
(c)日本での顧客が中国に進出したのに伴い、要望された
(d)同業他社の進出に刺激された
(e)中国とのかかわりはなかったが、官報・マスコミ報道などを見て自分で調査した

 進出の動機としては、中国で事業を伸ばしたい、国内の建設市場は先細りのため、自分が世話をした中国人留学生にチャンスを与えたい、などがあります。

 (a)の場合、合弁パートナーのつてなどで事業資格の取得や税務対応、中国人スタッフの雇用などはスムーズに行きます。その一方で、中国側は利益最優先の傾向があり、財務上のトラブルがよく発生するので、合弁パートナーの考え方をよく理解し、特に財務管理をしっかり行うことが重要です。(b)〜(e)では現地調査が重要です。特に、紹介者がいる場合はその経歴、評判、人脈の裏付けのほか、現地での協力業者、施工例を調査するとよいでしょう。

 中国では、外商投資建築業企業管理規定に基づく建設業企業資質証書を取得しないと、外資の建設業者は営業・施工ができません。同証書には、ゼネコンなどが取得する「施工元請資質」と、内装工事、ビル配管工事など50種類以上の職種別「専門工事業請負資質」の2種類があり、前者は契約金額や建設規模に応じて特級と1〜3級(日系ゼネコンは1、2級を取得)、後者は1〜3級(日系中小建設業者の多くは2、3級)の等級があります。

 この資質証書は、中国ビジネスで重要な書類のひとつである「発票」(領収書)の発行に不可欠です。発票は、所管の税務署に税務登録をした企業のみが入手できる税務署発行の証書です。商取引などで金銭授受を行う際に、受け取り側が必要事項を記入した発票を支払い側に引き渡し、これに基づいて税務処理が行われます。しかし、建設業では資質証書を有していないと税務登録ができないため発票が入手できず、したがって、発注者も工事代金を入金できなくなります。個人の小規模な工事の入金では直接税務署に出向き、営業税など合計で売上高の約3.5%相当を支払って発票を発行してもらう(署内に知り合いがいないと難しい)か、上記に加えて3〜5%の手数料を支払い、同業他社の協力を得て、財務に必要な事務手続きをしてもらう事も一般的に行われているようです。しかし後者の場合、信頼できる相手でないと、名義を借りた会社との金銭授受の際にトラブルが生じることがあります。(c)の場合は、顧客の仕事が完了すると中国での仕事がなくなる場合が多いので、現地法人は設立せず、工事代金も日本に送金してもらうという方法もあります。その場合は、約20%の法人所得税負担や日本人現地作業員のワーキングビザに注意する必要があります。

 上記以外の中国進出に際しての注意点を表2にまとめます。
 


表2.中国進出に際しての注意点
 

  1. 現地法人の経営は、中国人社長に任せる。事業成功の80%は、中国人社長が左右するので、中国人社長とは仕事だけでなく、いわゆる寝食をともにするなどの方法で考え方を共有し、お互いを認め合う
     
  2. 中国での事業は短期決戦、3年経って見通しが立たなければ撤退を考える
     
  3. 財務、外注費は自分で管理する(建設業には技術者が多く、財務に疎い場合が多い)
     
  4. 余力をもって進出する。当初予算の2倍の出費は覚悟しておく
     
  5. 差別化できる技術を持つ(例:シールドの型枠、老人介護住宅、省エネ、デザイン、浄水、排水処理。中国では特に省エネ、環境、老人介護に力を入れており、富裕層は日本式の内装、高級設備を好む)
     

中小建設業の進出事例

電気ダクト組み立て作業

 日本の中小建設業で中国への進出事例が多いのは内装業者で、内装全体工事から塗装、防水、建具、カーテン、床材工事・販売など広範囲で進出事例があります。中小、特に個人企業では、資格や営業許可証などのライセンスを中国人から借りて進出するケースが多いようです。受注先としては日系企業が主で、単価が安く金銭面でのトラブルが発生するケースがみられる中国企業からの受注は少ないようです。とはいえ、最近では日系ゼネコンでも下請業者への工事代金入金が工事完了後3〜12カ月と遅くなっているので、日系企業からゼネコンを通さず直接受注するケースも増えています。

 中国進出で経営が順調にいっている企業は、特別な技術を有する場合を除いて、技術よりマネジメント(財務、労務、行政指導への対応など)を優先しています。実際のところ、中国の地元建設企業経営者に技術畑の出身者は少なく、マネジメントが優れている人物が多いようですし、中国に進出して撤退に追い込まれた企業の多くは、マネジメントに問題があったといってもよいでしょう。参考までに、表3に中小建設業の中国からの撤退事例を示します。


表3.中小建設業の中国からの撤退事例

■内装工事S社(現地40名、合弁企業)
中国側パートナー企業幹部の財務操作により破綻(2004年)

■内装通信工事Y社(現地30名、合弁企業)
日系企業からの受注のみに頼り工事量が減少、赤字化により撤退(2005年)

■家具製作・販売I社(現地150名、独資)
現地企業の品質向上に伴う競争力の低下により撤退(2006年)

■床塗装工事S社(現地30名、合弁企業)
中国人技能作業員の退職・独立による人材不足で撤退(2004年)

■道路工事M社(現地20名、合弁企業)
親会社と中国人現地責任者の対立による経営の失敗で撤退(2004年)

 この問題を解決するひとつの方法が、表2の(1)でも触れたように、中国人に社長として現地法人の経営を任せることです。中国で成功した欧米系企業の多くが中国人を社長に据えていることからもわかるように、中国人が経営に主体的に携わり労務管理や営業に優れたパフォーマンスを発揮することができれば、その会社は成長する可能性が高いといえます。この場合のポイントとしては、日本側のオーナーと中国人社長との信頼関係が重要となります。また、許認可の面や本人のモチベーション向上を考えて、中国人社長に資本の一部を出資させるのも手でしょう。

国際化支援アドバイザー

杉本久雄国際化支援アドバイザー

杉本 久雄(すぎもと ひさお)

 1970年大学建築科卒業後、建設会社(ゼネコン)入社。関東地方各地の建築現場施工や東京都再開発事業を手がける。1990年、ゼネコン日中合弁会社総経理。1994年独立、上海に建設合弁会社を設立し総経理に就任、同時に、上海日系大手内装通信会社董事、中国設計院董事として中国各地の工場建設、商業建築に携わる。1996年東京で建築設計事務所を設立するが、2002年まで上海に常駐。それ以降も、中国での建設関係のコンサルタント業のため、毎月中国に出張し業務を行う。

(2010年1月 掲載)

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