
海外展開を実施している中小企業の経営者を取材し、海外展開に関する経営判断の背景や取組み事例を掲載しています。

北海道札幌市の靴製造卸のダテハキは現在、海外8社の工場に製品の生産を委託している。そのすべてが自社ブランド商品だ。北海道の風土に適した靴の製造を目指し、ムートンブーツの大流行の火付け役となったダテハキの独自の海外戦略をご紹介しよう。
【業種】靴製造・卸売業
【進出形態】委託生産(中国、ベトナム、カンボジア)

売れ筋のボアブーツを手にする守社長
ダテハキは、当時不足していた下駄を製造するため、道内の伊達市に1941年に創立されたメーカーである。しかし、1960年代に入ると生活の洋風化とともに下駄の需要は急速に縮小していった。そこで同社は下駄の製造を続けながら、販路である履物店でも販売できるサンダルや草履の卸売業にも参入した。
同社の守眞社長によれば、履物の製造工場は同じ種類の製品しか製造できないという特性がある。それぞれ原材料や製法はもちろん、設備もノウハウも異なるため、革靴の工場なら革靴しかつくれず、ケミカルシューズやスニーカーを製造することはできない。同社も自社の下駄工場ではサンダルや草履をつくることができなかったので、それぞれの履物の産地から商品を仕入れ、卸売業として参入したのである。
その後、1970年代になるとさらに和装需要が激減。それを機に北海道の冬に適したブーツの需要がでてきた。しかし、国内の工場では北海道の冬の道の特性にあう、つまり、降った雪が凍っても融けても耐えられる雪・氷・水に対応した商品をつくっていない。そこで、一からものづくりができる環境を求めて海外に進出することを決意し、自社で企画した商品の製造を台湾の工場に委託したのだった。
「滑らず、温かく、着脱しやすい、冬の北海道に適した靴をつくりたいというのが、生産を始めようとした目的でした。特定の季節に一部の地域でしか売れない靴ですから、一般の靴に比べれば生産量もずっと少なくなります。靴製造は金型や多様な資材が必要なため、ロットが少ないと採算がとれません。しかも、温かくするためにボアやウレタンなどの素材を使う必要があり、国内の工場でつくっていたらコストが高くなってしまう。そこで、台湾のメーカーに製造委託するようになったのです」(守社長)

中国の委託工場の生産風景(縫製)
ところが1990年代の半ばになると台湾の人件費が上がる一方で、中国の改革開放政策が進んだため、台湾の靴メーカーはこぞって中国本土に進出していった。当時、ダテハキが生産を委託していた台湾のメーカー3社も相次いで、中国に生産拠点をシフトしていった。こうした動きに呼応して、中国では製造技術が急速に向上していき、靴の生産に必要なさまざまな材料も中国国内で調達できるようになっていった。
このように中国国内の靴製造の基盤が整ってきたことで、同社も中国でのビジネスに関心を持つようになり、中国企業と直接に取引することを考えるようになった。守社長は自ら中国で靴の展示会などに参加し、100カ所以上の工場を視察して中国企業への生産委託を開始した。現在、中国では台湾企業の生産拠点も含め、6つの生産委託先との契約を結んでいる。
新たな拠点を見いだすにあたって、守社長はいくつかの基準で工場を選定してきた。それは、工場内が明るいこと、整理整頓されていること、従業員の入れ替わりが激しくないこと、靴製造に対してトップがしっかりした考え方を持っていること、などだ。
「工場内が暗かったり整理整頓ができていないと、製造工程で異物が混入する可能性が高くなります。また、靴の製造では刃物や釘なども使いますが、そうしたものが商品に入ったら非常に危険ですし、いっぺんに信用を失うことにもなりかねません。ですから、まずは整理整頓された環境であることが最低条件だと考えています」
靴は底の部分だけでも足裏に接する中敷(イン・ソール)、本底、ミッドソール、中底など数多くのパーツで構成されており、その構造は想像以上に複雑で製造にはさまざまなノウハウが必要となる。従業員の入れ替わりが激しい工場では、そうしたノウハウや技術の承継ができない。また、トップがひたすらコストの安さを求め、靴の製造の難しさを認識していない工場ではトラブルも多い。そうした点から従業員の入れ替わりが激しくないこと、靴製造に対するトップの考え方がしっかりしていることも工場を選ぶ際のポイントになるのだという。

中国の委託工場の生産風景(組み立てライン)
守社長は、委託生産ではなく自前の工場を持つことをこれまで「まったく考えなかった」という。先にも書いたが、靴の場合、1工場で革靴、スニーカーなど違う種類の製造を行うことはできない。そのため多品種生産を行うには、靴種ごとに多くの工場を持つ必要がある。そうなると投資額も大きく膨らむことになり、現実的ではないという。また、海外要員に関しても海外担当社員はいるが、これまで現地常駐を置いたことはない。
委託生産という性格上、イメージどおりの商品を製造するのは決してたやすいことではない。生産が始まった当初、使う材料もすべて同社が決め、実際に集めた材料もチェックし、仕様や製造方法などについて事細かく指示を出しても、要求レベルの製品はなかなかできなかった。まず、サンプルをつくらせて改善すべき点をチェックし、改めてサンプルをつくるという工程を3度も4度も繰り返さなくてはならないことが何度もあった。
また、靴の製造工程では、生産のスピードを上げるために型と靴を仮留めするときに釘を使うことがある。しかし、抜き忘れのリスクを考えて同社は生産を委託している工場に釘の使用を厳禁していた。ところが、出荷間際の検品作業で製品から釘が見つかる。委託先社長に問いただすと、契約に反して下請けに出していたのだという。
「トラブルは嫌というほどありました。トラブルが起こったときには、現地に飛んで徹底的に原因を究明し、再発を防止しています。幸い、当社が経済的な損害を被ったことはありません。また、当社は製品が出来上がると、当該製品の開発を担当した社員が現地入りして検査し、合格した商品の分だけを支払う契約にしています。L/C(信用状)は使わず、すべて納品後に現金を送金する取引形態は、台湾の企業との委託生産を開始した当初から一貫しています」

製品が出来上がると日本から対象製品の企画担当者が工場に赴き、検品を行う
現在、ダテハキが生産を委託している海外工場は、中国内の6工場に加え、ベトナムとカンボジアに各1工場の合計8工場となっている。いずれの工場でも製造やノウハウの蓄積が大事だと考え、簡単に委託先を換えることはせずに、じっくり長く付き合うというのが同社のスタンスだ。
今後の展開について聞くと、海外進出当初から付き合いのある台湾企業の中には、中国から東南アジア(現在はベトナムとカンボジア)へと拠点を移しているところもあり、さらに委託先が他の地域へと広がる可能性もありそうだという。また、進出から15年という年月を経て信頼関係もできた中国企業とは、今はトラブルもほとんど起きることはない良好な関係にある。
守社長は、「現在は必要な部材もほぼすべて中国国内で調達できます。産業基盤が整ったので、中国での靴製造が本格化するのは、むしろこれからでしょう。たしかにカンボジアやベトナムの方がコストは安いのですが、まだ中国の生産性にはかないません。いま、中国人労働者は高度成長期の日本のように、働けば働くほど生活水準が良くなることを実感していることもあって非常に勤勉です。より良い商品をつくるためには、当社の要望を伝えて指導することがまだまだ必要ですが、中国の人は仕事に対する意識が高いので、製造委託先として、今後もより一層期待しています」と、中国を高く評価している。
同社が小売店などに卸している年間約300万足の内訳は、一般向けの「ノースデイト」と学生向けの「サークル」を中心にした自社ブランド製品がほとんど。それに加えて、有名衣料品店や全国規模の靴流通チェーン向けにOEMで供給している製品がある。それらはすべて海外で生産されている。価格競争が激しさを増す中で、同社は消費者目線を基点とした自社開発商品による差別化で勝ち残りを目指している。そのためには、これからも海外の委託工場とパートナーとして互いに成長できる関係性を築き、積極的に生産現場にかかわっていくことが重要になるだろう。
「語学と自社事業を理解させる人材育成が必須」
自社の商品・事業を理解し、なおかつ現地の言葉を自在に話せる社員をまず採用・育成することが先決。当社では22歳まで中国で生まれ育った日本人を採用し、1年間、私と一緒に中国の工場を見て回って靴や貿易についての教育を行った。それから、彼は15年にわたって当社と委託工場のつなぎ役として活躍している。
「取引を簡単に解消しない」
何か問題が起きたときも簡単に取引をやめず、できる限り継続できる方法を模索する。ダメだったら次を探せばよいと考えず、ビジネスのパートナーとして互いに成長しようという気持ちが大切だ。
「日本の市場を離れない」
値段だけを追い求めていたら、自社商品よりももっと安いものが必ず出てくる。価格の安さに惑わされないで、日本市場が求めている特質や傾向を見失わないように注力すべきである。
| 代表取締役社長 | : | 守 眞 |
|---|---|---|
| 所在地 | : | 北海道札幌市東区北6条東4−8−37 |
| 設立 | : | 1941年 |
| 資本金 | : | 3500万円 |
| 従業員数 | : | 34名 |
| 事業内容 | : | 靴の製造・卸売業 |
| 電話番号 | : | 011−721−2181 |
| ホームページ | : | http://www.datehaki.co.jp/ |
(2010年2月 掲載)
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