世界初の線虫がん検査で世界を変える大学発ベンチャー

2019年 1月 21日

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線虫を活用した早期がん検査『N-NOSE』の事業化を目指して、大学の助教を辞して「HIROTSUバイオサイエンス」を起業した代表取締役 広津崇亮氏に、起業の経緯、会社の特徴、今後の展望についてお話を伺いました。(2018年12月取材)

インタビュー

お話:代表取締役 広津 崇亮 氏

起業、会社のおいたち

どのようなビジョンをお持ちですか

代表者画像

当社では、心身ともに健やかな未来、生物の能力を生かす未来、研究者が輝く未来という3つの未来をビジョンに掲げております。

がんの治療は早期発見が最大の鍵です。線虫によるがんの検査『N-NOSE』は、これまで検出が難しかったステージ0、ステージ1の段階でも高い精度で発見が可能です。世の中では素晴らしいがん治療薬も出てきていますが、まだまだ高額で国の財政を圧迫する原因になっています。我々の提供する検査は、低コストで早期にがんの検出ができるというメリットがあり、早く実用化をしなければいけないという使命を感じています。

起業の経緯について教えてください

大学生の時に研究を始めて、大学院博士課程で線虫の嗅覚についての論文(※注1)がネイチャーに掲載されました。線虫はバイオの世界では、ハエやマウスと同じくらい研究されているモデル生物で、線虫を題材としてノーベル賞を受賞した研究者は6名もいます。

線虫の嗅覚が優れているとうことは以前から知られていました。2013年にがん患者の尿と健常者の尿を線虫が嗅ぎ分けることができることを発見しました。半年間かけて実験を繰り返したところ、次々と仮説が検証され効果を確信し、2015年に2つの論文(※注2)を書きました。これがテレビで大きく取り上げられ起業の機運が高まり最初の起業をしました。この時は自分自身は大学に籍を置き、CTOとしての参画でした。

しかし、この最初の起業はすぐに行き詰りました。研究と事業の二足の草鞋ではなく、研究を一番よく理解している自分が退路を断って事業に専念しようと腹を括り、私が代表取締役社長になって、2016年8月に株式会社HIROTSUバイオサイエンスを設立しました。

  • 注1
    『The Ras-MAPK pathway is important for olfaction in Caenorhabditis elegans. Hirotsu T., Saeki S., Yamamoto M. and Iino Y. Nature, 404, 289-93 (2000) 』
  • 注2
    『Cancer screening test using C. elegans scent detection. Hirotsu T. Aroma Research,16,134-136 (2015) 』、『A Highly Accurate Inclusive Cancer Screening Test Using Caenorhabditis Elegans Scent Detection. Hirotsu T., Sonoda H., Uozumi T., Shinden Y., Mimori K., Maehara Y., Ueda N., Hamakawa M. PLOS ONE, 10(3):e0118699(2015)』

事業の展開と現在

事業は順調に進んでいますか

おかげさまで事業は順調に進んでいます。2018年8月には事業会社6社、銀行系ベンチャーキャピタル2社を割当先とした総額14億円の第三者割当増資ができました。現在、従業員も43人になりました。わずか、2年間でここまで到達できたことは喜びです。

ただし、ここに来るまでにはいろいろと苦労がありました。研究開発は一直線には進みません。研究を進めるには資金は欠かせません。研究開発を加速する上では研究員を採用する必要がありますが、やはり資金がなければ採用は出来ません。一方で、実用化が見えてこなければ事業会社から出資を受けることはできませんので、これらをシンクロさせなければいけません。

組織が急拡大したことで歪みも生まれました。世間ではよく言われることですが、規模が拡大して組織体制・管理体制を明確にしようとすると、創業期に活躍した人材からすると窮屈に感じる面もあるようで、今は過渡期を迎えていると感じています。

世の中では研究者が社長を務めると上手くいかないという説がありますが、私は研究者をやめて事業に専念しました。私がリーダシップをとることが事業化を実現する上で最短であると信じたからです。私は、ビジネスモデルの構築も好きです。資本政策策定や資金調達も嫌いではないという気付きがありました。事業センスは実践しながら勉強するしかないと思っています。研究者を辞めて、事業に専念することに対する不安はなかったかという質問を受けることも多いのですが、新たなことにチャレンジすることは楽しいと考えています。

どのようなビジネスモデルになりますか

通常の健康診断で尿検査をする際に、オプションで『N-NOSE』も行えるようにしたいと考えています。医療機関を通して尿を採取して、解析センターに輸送して解析を行い、医師を介して検査結果をお伝えする想定です。解析センターをどこに置くか、検査費用をいくらにするかは現在検討中です。

そして、これから

今後の展望をお聞かせください

集合画像

現在、症例数を増やしてエビデンスを構築している段階です。診断ではなく検査なので薬事承認は必要ありませんが、人の命にかかわる仕事なので、やはりデータに確証を持たせる必要があります。まずは、低価格でがんの早期発見ができる『N-NOSE』の実用化を目指していますが、同時に、がん種判定、ステージ判定をするための研究開発も東大柏ベンチャープラザで行っています。

今後は海外にも進出する予定です。人種間で結果に差がないかを調べるためオーストラリアで基礎研究を行ったところ、驚くことに結果は日本とほぼ同じでした。今後はアメリカにも事業拠点を置く予定です。

インキュベーションの利用

入居のきっかけ

九州大学内の施設で最初のベンチャーを立ち上げて失敗したのちに、大学を辞めて東京で新たに起業しようと考えたときに、いろいろな施設を見て回りました。生物実験環境が整っていて、東京大学にも近く、安かったということが決め手でした。

入居しての変化

東大柏ベンチャープラザ主催のイベントを通じて、国立がん研究センターが関心を示してくれて共同研究したいというお声がけをいただきました。また、バイオジャパンへの出展機会をいただいたことで、協業や共同研究が進みました。

入居して良かったこと、将来の入居者へのメッセージ

ここにはヘルスケア関連のネットワークがあり、イベントが頻繁に開催されています。登壇機会をいただくことも多く、自社だけでは構築できないネットワークづくりを、常駐のインキュベーションマネジャーが支援してくれます。また、研究者同士の連携も進んでいます。

会社情報

会社名
株式会社HIROTSUバイオサイエンス 
代表取締役
広津 崇亮
所在地
東京都港区南青山2-24-11 フォーラムビルディング2階
事業概要
生物診断研究:線虫および線虫嗅覚センサーを利用したがん検査装置の研究・開発・製造・販売

会社略歴

2016年8月 株式会社HIROTSUバイオサイエンス設立
2016年11月 東京都港区内で本社移転
2017年5月 東京都港区内で本社移転
2017年7月 千葉県柏市に中央研究所設立
2017年7月 福岡県福岡市に福岡研究所設立
2017年7月 オーストラリアに子会社を設立
2017年10月 愛媛県松山市に四国解析研究所設立

技術紹介

線虫画像

HIROTSUバイオサイエンスが開発する線虫がん検査『N-NOSE』で使用する線虫「C. elegans」(シー・エレガンス)。

体長は約1mmほどながら犬よりも多い約1200の嗅覚受容体を持ち、嗅覚が非常に優れていることで知られている。

担当マネージャーからのコメント

原田氏画像

同社が事業化を進める線虫がん検査『N-NOSE』は、線虫という生物の卓越した嗅覚と自己複製・繁殖能力を活用した、高精度・低コスト・非侵襲などの優れた特性を併せ持つ画期的なスクリーニング検査です。

IM室では、健康寿命の延伸や医療費の削減といった国の課題を解決するイノベーションとして、速やかな事業化に貢献すべく、最大限のサポートをしてまいります。

東大柏ベンチャープラザ
チーフインキュベーションマネージャー 原田 博文

インキュベーション施設

東大柏ベンチャープラザ