創業150年超の老舗企業の、時代に応じて変革する新事業展開

2015年 4月 1日

献上加賀棒茶

150年の伝統を守りつつ、市場に応じた事業モデル転換に加え、科学的評価にも取り組む老舗企業の新事業展開について「株式会社丸八製茶場」の丸谷誠慶社長にお話をうかがいました。

インタビュー

お話:代表取締役社長 丸谷 誠慶 氏

起業、会社のおいたち

創業は江戸時代とお聞きしました。

丸谷社長

弊社の創業は文久3年(1863年)で、今年で153年目になります。茶業関係の歴史の本の中に丸谷家三代目がお茶の栽培と販売をしていたことが記載されています。それ以来、日本茶一筋に取り組んでまいりました。

歴史や伝統を感じていますか。

私は2013年に社長に就任しました。丸谷家八代目、丸八製茶場の六代目になります。伝統を重視するというよりは時代や環境に応じて業態が変わってきたということだと認識しています。高度成長期には海外の安い茶葉を輸入して加工する大量生産・大量販売であったと聞いておりますが、祖父が社長、父が専務の時代に当社にとって大きな変化がありました。

その一つが昭和57年に磯部晶策先生(※1)と出会ったことでした。当時は食品の安全・安心を提唱する声はあまり聞きませんでしたが、先生との出会いをきっかけに安全・安心に力を注ぐことになりました。

二つ目の出来事が昭和58年に第34回全国植樹祭で来県された昭和天皇に加賀棒茶を献上させていただいたことです。当時、一番茶(冬越え後の新芽)は緑茶として販売し、焙じ茶の原料は二番茶以降というのが当たり前でしたが、天皇陛下が焙じ茶を好まれるという情報を得て、茶葉の選定から焙じ方まで試行錯誤した末に、一番茶を使用した最高品質の加賀棒茶を開発することが出来ました。このことをきっかけに、「献上加賀棒茶」(※2)という名前で、一番茶の茎の焙じ茶を一つのブランドとして商品化しました。

※1 磯部晶策氏:『食品を見わける』(岩波新書)の著書などで知られる

※2 「献上加賀棒茶」株式会社丸八製茶場の登録商標

事業の展開と現在

大学と連携して加賀棒茶の味や香りの解明をされているそうですね。

加賀棒茶の味や香りの研究をするために2006年にいしかわ大学連携インキュベータ(i-BIRD)に入居しました。隣接する石川県立大学や金沢工業大学、工業試験場と連携しながら良質な茶葉が育つ土壌の分析、味や香りに関する成分分析を行っています。

献上加賀棒茶は一番茶の茎を焙じたものなのですが、茶葉の状態や焙じ方で味や香りが変わります。焙煎する際の火力やスピードなど、製造条件を一定にしても味と香りが変化することがあります。現在、官能評価のみで「美味しい」の基準を決めているのですが、今後は科学的な目というか客観的指標が必要ではないかと考えています。すべてのロットを製造現場の従業員が試飲をして、さらにオフィスの従業員が試飲をすることで一定水準の商品を提供しているのですが、成分分析等を行うことでさらに品質を高めていくことが出来ると考えています。

喫茶室の展開やブランド力向上に注力されているそうですね。

日本茶を愉しんでいただける場として、1994年に金沢市東山で「茶房 一笑」、2003年に本社敷地内で「茶房 実生」を始めました。また、2015年にはJR富山駅・きときと市場とやマルシェ内に、日本茶と日本酒のコラボ空間として「syn」を開設しました。多くの方に愉しんでいただき日本茶に興味を持っていただければと考えています。

ブランド力向上という意味では、昨年茶房 実生を改装した際に「いしかわインテリアデザイン大賞」を受賞いたしました。また、本社の屋外看板も「いしかわ広告景観賞」を受賞いたしました。本当にありがたいことだと感謝しております。

加賀茶研究会についてもお聞かせください。

本店の様子
本社では製茶の様子も見ることができ、安全・安心を体現している。

現在、石川県茶商工業協同組合の若手経営者を巻き込んで加賀茶研究会を毎月開催しています。i-BIRDはメンバーが集まる場として最適です。日本では緑茶の需要が減少傾向にあります。加賀茶研究会を通して共に学び、新たな取り組みを全国に発信して「加賀茶」のブランド力を高めたいと考えています。

そして、これから

今後の展望をお聞かせください。

企業として成長は重要ですが、規模の拡大のみが目的であってはいけないと考えています。まずは国内市場で日本茶、加賀茶の認知度を高め、家庭内に浸透させていきたいと考えています。また、急須でお茶を入れる習慣がない若い世代にも愉しんでいただける工夫が必要であると考えています。ティーバッグ商品「加賀いろはテトラシリーズ」は、多忙な女性でも気軽に本物の日本茶を愉しんでいただきたいというコンセプトで開発しました。

家庭内で日本茶を愉しむためにどうするか、お茶の文化を変えるくらいの発想で取り組んでいきたいと考えています。通常の商いをしているだけでは新たな発想は生まれてきません。複数の加賀茶製品メーカーで集まり、新商品や新サービスを考える「加賀茶研究会」は新たな発想を生み出すための仕組みの一つです。日本茶だけに拘らず珈琲や紅茶などを研究することも大切だと感じています。

海外の日本茶ブームをどう取り込むかということにも関心はあります。以前、ロンドンの展示会に出展したのですが、日本との水質の違いによって期待した香りが出ないといったことがありました。海外展開する上でも水質と加賀茶の関係についても分析する必要があると考えています。

インキュベーションの利用

入居のきっかけ

石川県立大学との共同研究を行っていましたので、i-BIRDの存在は知っていました。安定的に良い商品をお客様にお届けするために、加賀茶の味と香りを分析する拠点として活用することにしました。また、複数の加賀茶製品メーカーと共同して実施する「加賀茶研究会」の開催拠点としても位置付けています。

入居しての変化

自社単独で商いを行っているだけでは新たな発想が出てきません。加賀茶研究会を開催する場が出来たことが大きいと考えています。

入居してよかったこと、将来の入居者へのメッセージ

様々な情報が得られるようになったということが一番大きいのではないでしょうか。常設のインキュベーションマネージャーがいつも見守っていてくれます

会社情報

会社名
株式会社丸八製茶場 
代表取締役社長
丸谷 誠慶
事業概要
  • 日本茶の製造・販売
  • 日本茶の官能評価を実証する成分分析・研究
  • 日本茶インストラクター養成等

会社略歴

1863年 茶業を創業
1954年10月 法人化し株式会社丸八製茶場を設立
1983年 磯部晶策氏主宰「良い食品づくりの会」に入会
2003年10月 オープン工場併設の新社屋建設
2006年11月 i-BIRDに入居
2011年9月 いしかわ産業化資源活用推進ファンド(活性化ファンド)採択
2013年10月 近畿大学と官能評価について研究開始
2013年10月 現代表・丸谷誠慶氏が社長就任

製品紹介

九谷焼柄のパッケージが人気の加賀いろはテトラシリーズ

テトラシリーズ

お茶の茎の部分を焙じる加賀棒茶を、昭和天皇への献上用に厳選された素材と製法で仕上げた「献上加賀棒茶」のブランドを中心に、九谷焼柄のパッケージが人気のテトラシリーズ等が北陸土産として東京でも販売されている。石川県内に2軒、富山県に1軒、茶房を構えるなど、お茶の提供にとどまらずお茶を飲む文化も提供している。

担当マネージャーからのコメント

i-BIRDでは石川県内の企業や大学、支援機関、行政機関とのネットワーク構築の更なる強化のため入居企業との情報交換や事業化のサポートを行っています。丸八製茶場の丸谷社長は「加賀茶研究会」の立上げから3年の活動を通じて一層の成果と更なるチャレンジを進めておられます。研究開発にかける大学シーズ、企業ニーズを拾い上げて企業と大学がコラボレーションする機会を、これからも増やしていきたいと思います。

いしかわ大学連携インキュベータ(i-BIRD)
IM(インキュベーションマネージャー)鈴木 浩吉

インキュベーション施設

いしかわ大学連携インキュベータ