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第12回「地球上で上手に生活するには」

1月の執筆者は、チーフアドバイザー(モノ作り)大村 卓一です。

「地球上で上手に生活するには」

 この季節、カイロは私にとって必要不可欠な品物です。使い捨てのあのカイロです。紅葉狩りから夜桜の頃までの約半年間、私は兎に角お世話になっています。 

 外袋を破って少し厚みのある包みを取り出し、説明書に従って揉みほぐし、つま先や腰などに貼ると、「ほんとに暖かくなるのかな?」と思わせるタイムラグの後、“ジンワリ”とその部分が暖かくなる。その後、約半日間、40〜60℃くらいの温度を保ってくれる。 

 30年くらい前だったと記憶していますが、商品が出回り始めた頃、手品みたいな不思議な商品に興味を持ち、中身を分解してみました。鉄粉と湿った木屑のようなものが入っていました。使い終わったものを分解すると赤錆のような色をしていたので、鉄粉が赤錆になるときの反応熱を利用した商品であることは判りましたが、その反応でそんなに大きな発熱があると言うことを感覚的には理解できず、狐につままれたような想いでした。研いだ直後の包丁を(広島弁で言うと)アズリながら使用していると赤錆を確認することはありますがそんなときでも発熱を感じたことはありません。

 「その位の温度上昇はあり得るナー」と思えるところまで考えて見ます。

 酸化反応は発熱反応ですから、反応が短時間に起これば発熱量は大きくなり物体の温度は高くなります。この反応に水が大きくかかわっています。鉄は常温乾燥状態ではまず酸化しません。水の中で電気化学的な反応によって酸化されると説明されます。水の中を酸素が拡散して鉄表面に到達する過程が反応を決めています。反応が短時間で起きれば、言い換えると酸素が短時間に鉄表面に到達すれば、発熱量は大きくなります。このカイロでは鉄粉を水中に浸漬するのではなく、保水効果のある木屑のようなもの─実際には高分子吸水剤、活性炭やバーミキュライト─がカイロの空間の湿度を保ち、鉄粉表面に水膜を形成しています。私たちの生活空間においても、相対湿度が60%をこすと鉄の腐食は著しく加速します。この領域では吸着水は連続した層を形成しているので電気化学反応が継続するのです。カイロでは鉄粉の表面にごく薄い吸着水を形成することによって、反応を支配している酸素の供給速度を実効的に上げていると言うことになります。もう一つは表面積です。発熱を伴う鉄の酸化反応は表面で起こっているのですから表面積を大きくすることによって酸素と鉄の反応の機会を増やし、発熱量を大きくすることができます。カイロでは数十ミクロンオーダーの粒径の小さな鉄粉を使用しています。粒径が1桁小さくなると表面積も1桁大きくなります。反応速度も1桁大きくなる効果を狙っています。 

 鉄の腐食反応が感覚的に理解できるところまでやってきました。

 ここまで発熱する部分ばかりに注目してきました。このカイロは鉄粉が酸化反応している容器である内装材とその内装材を包装する外装フィルムからなる二重包装になっており、それぞれ極めて大きい役割を担っています。内装材は酸化反応で消費された酸素を速やかに補い、雰囲気を高湿に保つ、酸素および水透過性が高い材料でなければなりません。一方、外装材は外からの酸素の進入を遮断し、内部の水分を逃がさない物性が求められ、「いつでも/どこでも/手軽に’暖かさ’を取り出すことができる」と言う商品価値を決める基幹材料になっています。古くはラミネートフィルムが使用されていたように記憶していますが現在は透明フィルムが使用されているようです。 

 出始めたころに比べ、保管できる期間が長くなり、心地よい暖かさを安定して得られています。しかも安い。包装材、給水材などの性能の向上のおかげだと感謝し、今後もカイロのファンであり続けます。 

 今回(使い捨て)カイロの話をしてきました。 

 酸素と水を使いこなした事例を紹介したつもりです。  

 

参考資料:防食技術便覧、Wikipedia(懐炉ほか) 

 

チーフアドバイザー(モノ作り) 大村 卓一