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第11回「階段とスロープ」

12月の執筆者は、チーフアドバイザー(技術)山本 茂之です。

「階段とスロープ」

 8年前の2001年3月24日、私は竹原市近郊の国道の急な下り坂を車に乗ってかなりのスピードで駆け下りていました。国道の左側の高さ2メートルほどのところにある「下り注意」の看板が異様に振動しているのに気付きました。助手席の家内に、風はあまりないのにどうして振動しているのかな、多分、看板が風に共振してあんなに振動しているのでは、などと能書きを言いながら、20秒ほど下った時、国道右側の鬼瓦のある大きな家の屋根から、何枚も瓦が国道に飛んできたのです。それを避けながら何とか車を進めることができましたが、この時何か世の中の異変を感じたのです。

 この時が、地震だったのでしょう。最初は竜巻だと思いましたが、至るところで屋根瓦の被害が顕著でした。それでも、しばらくの間は、竜巻と思い込んでいました。そのうち渋滞が始まり、結局、道路を歩いている人に様子を尋ねて、やっと地震だとわかったようなお恥ずかしい次第です。

 数日後、保険代理店と交渉です。我が家も損害を受けたのです。初めて掛けた10年満期の地震保険が切れる半月前の地震でした。代理店によれば被害の認定は全損、半損、一部損の3段階しかないとのこと。支払われる保険金は、それぞれ、全額(100%)、50%、5%と約款には書かれています。数週間後に専門家による被害状況の調査が行われ、結局我が家は一部損の認定でした。

 その後の調査で、この地震では死者2名 、重傷者43名 、軽傷者245名 、住家全壊70棟 、住家半壊774棟 、住家一部損壊49,223棟という記録が残っています。

  しかし、支払われる保険金額では、とうていリニューアル費用はまかなえませんでした。率直な気持ちとしては、例えば25%の認定があっても良いのではと思いたくなります。50%と5%の間や、100%と50%の間のグレイゾーンに相当する損害が、記録から見てもたくさんあるはずです。

 この認定の形態はまるで段差の大きな階段のようです。この階段は上ることも、下りることも難しい階段です。せめて5%か10%きざみの小さな段差の階段にして欲しいと思うのが人情です。いや、いっそのこと、段差のないなだらかなスロープにして欲しい。それが被災家屋、被災者にとって優しい保険なのでは…。スロープになっていないのは、認定作業が大変だからなのでしょう。他の損害保険と違って、地震は被害発生が同時で、かつ広範囲にわたる宿命なので、特にそうなっているのでしょうか。

 研究開発の提案とその優劣の評価についても、同様な理不尽を感じることがあります。評価を数値化(点数)して決める場合と、優・良・可のような三段階、あるいは五段階で決める場合があるようですが、これもまるでスロープと階段のようです。研究開発の評価の場合には、連続的に数値化したほうが点数が散らばって本来の目的である優劣がはっきり付きますが、三段階評価ではほとんどが優や良になってしまい、優劣が付きません。同じ優であるのにも拘わらず、別の評価基準を用いて採択と不採択に分かれてしまうことが起こります。

 ところで、階段とスロープは世の中でしばしば目にする光景です。私の家は神社の前にあります。神社へとつながる階段を家から見ることができます。この階段は等ピッチの階段です。家から少し離れたところにあるお寺の入り口はスロープと階段の両方が付いています。

 神社仏閣に留まらず、世の中ではいたるところに階段とスロープが状況に応じて作られています。当然のことですが、階段は急な段差を緩やかにして上り下りするためのもの、スロープは緩やかな段差を平地の感覚で歩くためのものと言えるでしょう。これから各地の名所を散策される時は階段なのかスロープなのか、是非メモを取ることをお奨めします。

 かの宮島の弥山の登山道にも幾つかのコースがありますが、コース全体の印象から言えば、紅葉谷コースはスロープ型、大聖院コースは階段型と言えるでしょう。紅葉谷コースを登り、大聖院コースを下りるのが私のお奨めです。

 研究開発の提案の中でしばしば見受けられるものの一つに、段差解消型の車椅子の提案があります。段差があっても上り下りできるという車椅子です。この中では階段を世の中からはなくならないものとして受け入れています。バリアフリー社会の実現は段差の解消と言っても過言ではないでしょう。

 階段とスロープは、デジタルとアナログと言葉を変えてもよいかもしれません。あるいは明確と曖昧かもしれません。冷淡と親切かもしれません。

 地震による家屋・家財の損害認定は今も変わっていないようですが、階段からスロープにできるように、保険会社も早目に見直しを検討して頂きたいものですね。

 

チーフアドバイザー(技術)山本茂之