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第81回「自動ワイパー」

  • 10月の執筆者はチーフアドバイザー(ものづくり)大村卓一です。

    「自動ワイパー」

    自動に設定しておくと、雨が降りだしたらフロントガラス面をゴムブレードが動き出し、雨膜の厚みムラでぼけていた景色を4K画面のように再生してくれる。雨量に応じて摺動速度も変化する。それが自動ワイパーだ。何を測定して、どう判断し、停止も含めどの様に作動させるのか?

    雨膜を検知するのだから水の物性を利用しているはず。水は地球上ではどこでもあり無くてはならない物質なのだが極めて特異な性質があるから検出手法は、比重、沸点、表面張力、誘電率、潜熱・・など沢山考えられる。

    外出中、傘をさすときの行動を参考にしてみよう。頭や露出している皮膚の微小領域に冷たさを感じてその方向の神経を活性化させ、ポツリポツリと言う液滴の衝突を触感や音で感じるようになり傘をさす準備を始める。本降りになったら視覚的に雨粒を識別できるようになるし、髪や衣服まで乱れ始めるので速足で雨宿り先へ駆け込む。それぞれ、自動ワイパーを起動させる時、間欠ワイパーを動作させる時、通常の速度で駆動する時、そして高速に作動させる時に対応する。科学用語に翻訳すると、熱容量や潜熱という熱物性値に起因した温度変化を感知し、水滴と物質の相互作用で発せられる変形や音の大きさを判断し、我々の脳は傘をさすという行動にゴーをかけているのだ。

    この行動をそのままトレースすれば自動ワイパーは出来上がる。しかし、多くの点で人工のセンサーはサイズや感度で生体に負けているのでそれは難しい。上述の物性値を精度良く読み取ることが出来るエレクトロニクス分野の
    技術に置き換えようとすると、水の電気抵抗や誘電率を利用しようと云うことになる。フロントガラス表面の一部に櫛形電極を設けておくと電極間のガラス部に雨水が付着した時、電気抵抗や誘電率の変化によって電気信号(電流や電荷量などのであるが電圧に変換する)で降雨を知らせてくれる構造をつくる。付着水量と電気信号の強度は一定のルールに従って変化・回復する。

    強制的に付着水を排除することによってリスポンスは早くなる。強制的に排除するには機械的(ワイパー起動)や熱的(ヒーター加熱)方法でアシストすることが出来る。この櫛形電極で電気抵抗や電気容量の変化を測定する方法は電極が雨ざらしになっているので、長期信頼性に難があるかもしれない。

    電極を表面に露出させない方法として、静電容量の変化を利用する方法がある。予め付加しておいた表面電荷を降雨によって生成した雨膜が排除することで生じる静電容量変化を読み取る。この方式を採用したデバイスにタッチパネルがある。読み取り電極をメッシュ状に形成することによってタッチパネルでは指先が触れた位置を識別することができる。

    これらの方法はむしろ雨の降り始めに適している。雨量が増加するとフロントガラス状の雨膜の膜厚に変化がなくなるので信号強度の変化も少なくなる。
    フロントガラスの前に広がる空間の雨粒密度は雨量に比例するから、その量を計測すればよい。カメラは小型化されているし組み込みソフト技術は高速で進化している。定量的に評価する能力は生体を凌駕している。

    自動ワイパーの仕組みはほぼ解析できたので、検証しようとそれが搭載されている実機を観察した。フロントガラスの室内側でルームミラーの裏側にあった。外から見るとセンサーは2つの部分から構成されていた。上の部分は2センチメートル角位のパターンが形成されていない領域でデバイスを識別できないがコンデンサーではないとは言えない。その下部には2つのレンズがあり、エンジンをかけると一方から光が発信されてきたのでLEDと集光系であることが推察できた。予測の範囲内であることが確認できた。

    車は自動化しつつあり自動運転は業界あげて高い関心を示している、Auto-mobile=自動で動く車=自動車というのだからこの日を見越した命名だったのだろうか。
    私が運転を始めた40年前には自動運転どころか付属機能もすべて運転手が操作・調整しなければ在りたい状況は実現しなかった。エアコンではなくヒーターやクーラーを切り替えて空調を行っていた。フロントガラスが結露した
    時など運転者の経験がものを言っていた。運転巧者は素早く周辺の環境条件を調整し早くその状況を脱出していた。運転上手は現象に対処する手法を科学的な思考に従って対処する、そんな+αの技を身に着けていた。今はエアコンにしておけばそんな状況にはならない(?)はずだ。また、口頭で指示をすれば行き先案内を画面上に示してくれるようになっている。

    残っているのはアクセル・ハンドル・ブレーキの操作という前述の自動運転。
    ここに至る必要条件はセンサー技術(見て)、AI技術(判断し)、機構技術(動かす)、(それを科学に沿って確実に繰り返す)信頼性技術・・・であるが、ほとんど完成しているといって過言ではないようだ。実機での実績を積み重ねている段階と思う。
    自動ワイパーは商品化され、恩恵を受けている人はたくさん居られるが本当に必要?
    ワイパーを駆動させるためのアルゴリズムは変わらなくとも、判断基準は経験を取り込みながらAI技術により進化し自動ワイパーというロボットは確実に・上手に作業はこなすことが出来るようになってゆく。そのロボットの恩恵を享受してゆくとドライバーというご主人様の危険予知能力は退化し、想定外が増えてゆくのではないかと懸念する。
     

    ものづくり支援チーフアドバイザー 大村 卓一

    ※このコラムは2015年10月7日に配信されたメルマガ「広島校だより Vol.109」に掲載されたコラムです。メルマガ「広島校だより」を配信希望の方は、広島校だよりからお申込みください。