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第74回「コウモリと整理法」

  • 3月の執筆者はチーフアドバイザー(技術)山本茂之です。

    「コウモリと整理法」

     超音波は、1秒間に2万回以上も振動する音波です。人の耳で聞き取ることが出来る普通の音波(可聴音、1秒間に20回〜1万5千回振動)と違って、余りにも振動するために、人の耳では聞き取ることは出来ません。鼓膜が追従し
    ないのです。

    普通の生活では、音波は空気中(気体)を伝わって耳に入りますが、固体や液体中でも伝わります。音波は常温の空気中では、約333m/秒のスピードで伝わりますが、固体の鉄では5,950m/秒、液体の水では1,500m/秒と、気体中よりもずいぶんと速いスピ−ドで伝わります。電車が見えないのに、レールがゴトゴトと音を立てるのを聞いて、電車が近づいているのを早めに感じることが出来ることを、誰しも体験されているはずですね。

    これらはいずれも物質中を通る透過波の話ですが、異なる物質との境目では、もちろん音波は反射する性質も持っています。

    超音波は指向性が高く、音圧も高く取れる性質があり、産業的には様々の用途で使われています。その一つは、妊婦さんのお腹の中にいる胎児の診断です。今では、妊娠16週頃になれば、男の子か、女の子か、が分かります。そ
    の他に、魚群探知機、洗浄等で威力を発揮しています。

    自然界で、この超音波の反射をうまく利用している動物の代表がコウモリであることは、よく知られています。超音波を発し、物質に当たって反射して返ってくる反射波を利用して、相手までの距離や形状等の周囲との位置関係を認識する、いわゆる「音響定位」をコウモリは行っています。

    小型のコウモリは1秒間に3万回〜10万回振動する超音波を口から発し、反射波を耳で受けて、障害物をうまく避けて飛び回りながら、飛んでいる昆虫等を捕らえて生活しています。この様子は、さながら「真っ暗闇でも飛び回ることが出来る鳥」の感があります。

    イソップ物語(イソップ寓話、イソップ童話とも言う)は、紀元前3世紀ごろ成立したと伝えられる古代ギリシャの説話集です。動物を主人公にした寓話形式のものが多く、日常の道徳、教訓、風刺等が織り込まれています。

    「卑怯なコウモリ(鳥と獣とコウモリ)」は、その寓話の一つです。鳥の一族と獣の一族の争いの中で、コウモリは、鳥が優勢の時は鳥の前に姿を現して、私は鳥の仲間です、と言い、逆に獣が優勢の時は獣の前に姿を現して、私は獣の仲間です、と言い、その場に合わせて都合の良い言い訳をしていました。争いが終わって、鳥と獣は和解しましたが、コウモリはどちらの一族からも仲間に入れて貰えなくなり、暗い洞窟に身を潜めるようになった、というものです。二股は、誰からも信用されなくなるという教訓です。

    歴史的に見ると、コウモリは「翼を持つネズミ」として鳥類に分類され、その後、主獣類に分類され、更に近代分類学では哺乳類に分類されていましたが、近年のDNA解析によって、現在はローラシア獣上目に位置付けされています。

    このローラシア獣上目には、コウモリ目を始め、ハリネズミ目、トガリネズミ目、センザンコウ目、鯨偶蹄目(クジラ等とウシ等)、ウマ目、ネコ目の7目が位置付けられます。要するに、遺伝子解析によれば、コウモリは獣と言った方が良さそうです。

    コウモリが鳥であるのか、獣であるのか、のイソップ寓話に始まる一連の問題は、情報やモノを分類する時に生じる悩ましい問題として、そのアナロジーから、コウモリ問題と言われています。

    初めて利用するホームセンターに、食品を保存するための透明ビニール袋を買いに行く時を考えてみて下さい。ホ−ムセンターには普通、置き場を示す看板がぶら下がっています。行きつけのホームセンターで例を見てみると、
    「文具・カー用品」、「台所用品」、「アルミ・消耗」、「鍋・フライパン」、「トイレ用品」、「芳香・消臭」、「ゴミ袋」等の看板が店内にぶら下げられています。抽象的な広い意味を表す看板名であったり、具体的な製品名であったり、分類の基準がどのようになっているのか、よく分かりません。何のコーナー(看板)に行けば、すぐに目当てのビニール袋が見つかるでしょうか。

    答えは、このホームセンターでは、ビニール袋は、まさかの「ゴミ袋」のコーナーにあります。「袋」の看板名ならば納得できますが、ゴミが前についているので、まさかここにあるとは思いも付きません。

    もう一つの例として、ガムテープは「電動工具」のコーナーにあります。ただし、大きな分類の「電動工具」の傍に、<テープ・ヒモ>の二次分類の看板が懸かっているので、こちらは見つけやすい。上記の「ゴミ袋」には、何故か二次分類の看板が懸かっていません。

    一般に、情報やモノは複数の属性を持っています。もっとも強いであろう属性のところにあるはず、ということで、ビニール袋の場合には、最初は「台所用品」のコーナーに行ってみましたが、その場所にはなく、結局「ゴミ袋」のコーナーで見つけることが出来ました。

    我々は、文書や写真をファイリングして保存します。保存した後で大抵はほとんど見ることはない情報が多いのですが、大事な情報、捨てがたい情報、思い出に取っておきたい情報、取っておけば将来何かの役に立ちそうな情報等として、様々な思いの基に、人はファイリングします。

    仮に、「ゴルフ」というファイルがあるとします。このファイルに、開催案内や成績表を順番に綴じて、スコア、平均ストロ−ク、平均パッティング数等を記録したりするために使ったりするでしょう。同じファイルに、一緒にラウンドしたパートナーと撮った写真を綴じているでしょうか。写真は、むしろ「写真」というキーワードを優先させて、アルバムに時系列に綴じている方が多いのでは。複数の属性が考えられる場合、どのファイルに綴じたか、何年か後に、目当ての書類や写真を捜すために、苦労することになりそうです。

    しばしば使うファイルなら、そのファイル名は頭の中に鮮明に記憶されており、見たい情報を直ぐに取り出すことが出来ます。しかし、仮に何年も手にしたことのないファイルなら、そのファイルの存在すら忘れていると思います。新しい情報を、以前とは別のファイルに綴じてしまうことも起こり得ます。

    日常生活でも経験するこれらの分類の悩みが、正にコウモリ問題と言われるものです。

    コンピュータのOSのファイルシステムでは、階層構造を持つディレクトリーというファイル名でデータ管理していますが、ここでもコウモリ問題が発生します。OSによっては、ハードリンク機能を使って、一つの情報に二つ以上のファイル名を付けて、この問題が起きないようにしています。

    机の周りは、このようにして沢山の書類や、その書類を束ねたファイル等で囲まれてしまいます。しばしば手に取って参考にするのは、その内のほんの一部でしょう。

    野口悠紀雄氏は、新着の書類や、使用したばかりの書類を一ヶ所の棚の左端に置いていく、いわゆる押し出しファイリングを勧めています。これによると、見た(使った)ばかりの書類はいつも棚の左端にあり、使われなくなった書類ほど右端に押し出されていくことになります。一度しか見ない書類ばかりなら、時系列の順で並んでいることになります。結局、右端の方に移動した書類を整理すれば、机の周りはスッキリということになります。このファイリング法のポイントは分類しないということ。コウモリ問題で悩むことはありません。時系列で整理されているので、頭も机の周りもスッキリです。

    どうしても取っておきたい書類は、アーカイブとして電子媒体にするか、ハードカバーやソフトカバーの書籍の形にして残すのが良さそう。

    机の周りは必要最小限の書類だけに整理して、スッキリした空間で過ごすのが良いのではないでしょうか。

    チーフアドバイザー(技術)山本茂之

    ※このコラムは2015年3月4日に配信されたメルマガ「広島校だより Vol.102」に掲載されたコラムです。メルマガ「広島校だより」を配信希望の方は、広島校だよりからお申込みください。