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第66回「『見る』ことについて」

  • 7月の執筆者は、チーフアドバイザー(モノづくり)大村 卓一です。

    「見る」ことについて

     大脳皮質の3分の1の領域が「みる」機能に充てられているのだそうです。「勉学や仕事や趣味や人との付き合いなどで日々、頭をひねり、心を砕き、一喜一憂することが山のようにある中で、物を見るだけのために脳の半分近くを使っていることに驚くかもしれない。このことは、見るということは決して単純でも簡単でもなく、とてつもなく膨大な情報処理を必要としていることを裏付けしている。」

     

    出展:藤田一郎著 「見る」とはどういうことか―脳と心の関係を探る―  化学同人出版

     

    視覚野ではただ網膜に映った像を現認するだけにとどまらず、今留意すべき対象物はいかなる状況にあり、取るべき行動を筋肉に伝えるという役割まで担っているからこれだけ大きな領域を使っているのだ。頭をひねり、心を砕くことが少ないアカカ属サルの場合はもっと多くの領域を「みる」ために使っているそうだ。 

     

    昔、分析の仕事をしていた。材料やデバイスの不具合原因を特定し原材料を含めたプロセス条件を改善する仕事だ。不具合は、開発中に、量産プロセスで、お客様のところで発生する。失敗は原因を的確に押さえきちんと対策が取れれば次の飛躍のきっかけにもなるので重要な仕事だ。その仕事を振り返ってみる。

     

    一番初めにやることは目視、目で視る。どんな状況で不具合が発生したのか? 不具合発生品より周辺を視ている。次に、ルーペを持って「グー」と近づいて不具合の状況を見る。次のステップは顕微鏡などを活用し、良品と比較しながらしっかり観る。実は観る手法は多岐に亘る。構成元素・分子構造などの化学構造を特定し、個々の分子の分布状態・結晶構造・モフォロジーなどの物理構造を解明する作業である。この作業では現場、即ち不具合発生の正にそのポイントを捉えていなければならない。過去の事例や正常(品)と比較しながら違いを探る。間違えを起こすのは、観るという作業が面白いので特異部分にのめりこんでしまうこと。そうなると後に大混乱を強いることになる。確実に現場を捉えることが一番大切だ。

     

    良品は美しい、整っているというほうが当たっているかもしれない。高校時代の数学の先生が、「正解は美しい形に収まるもの」と云っておられた。次はこれらの作業を総合して診る。言弁は知見を総合し仮説を議論せよという意味。そして最後に試る。仮説に従って対策を試すのだ。この一連のプロセスは長い期間を要していた。賢い脳なら瞬時に行うことをだ。いや、賢い脳があるなら不具合は作らなかったはず。私の仕事はなかった?

     

    昔の仕事は見る、という言葉でくくることが出来た。

     

    大脳の半分近くを使ってやる仕事に相応しい成果があったのか?少なくともよくいろいろな不具合を、視て、見て(識別する)、観て(判断し)、診て(仮説を立てる)、試て(行動する)きたことは確かだ。そして良品は美しいことを体験した。美しい物に囲まれて今後の人生を過ごしたい。

     

    今、ものづくり支援アドバイザーという肩書を頂いている。『見える化』という管理手法にお世話になっている。年のせいで視力は衰えてきているので公私ともにその重要性を感じている。個人的には『観える化』とすべきではないかとも思う。

     

    「みる」ことの次に私の多く脳を悩ませている行動はなんなのだろう?

     

    ものづくり支援チーフアドバイザー 大村卓一 

     

    ※このコラムは2014年7月2日に配信されたメルマガ「広島校だより Vol.094」に掲載されたコラムです。メルマガ「広島校だより」を配信希望の方は、広島校だよりからお申込みください。