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第65回「家と航空写真」

  • 6月の執筆者は、チーフアドバイザー(技術)山本茂之です。

    「家と航空写真」

    10年を一昔と言うなら、マイホームを建ててから、かれこれ三昔(こんな日本語はありません)が経ったことになります。

     

    「縁側で日向ぼっこをしながら、孫の面倒を見る」、のが家族の一つの理想的な姿であるとするならば、家の南側に東西方向に長い縁側があるような家を建てることは当然なことです。家族の理想的な姿に関わりなく、家の南側に日当たりのよいスペースがあることは、何かにつけて好都合です。

     

    敷地に、ある程度の余裕があって、周囲の道路や建物による特段の制限を受けないのであれば、和風の家では、東西方向に長手の家を建てるのはごく自然なことです。しかし、普通はこのような自由度は少なく、大抵は既存の道路や建物、家を建てる敷地の都合によって、家の向きの制限を受けることが多いようです。

     

    30数年前に、たまたま東西に長い土地を購入することが出来、30年前にマイホームを建てました。

     

    設計段階と基礎工事の時に、家の南北方向(その直交方向が東西方向)を、方位磁石を使って注意深く確認したことを、今でもはっきりと覚えています。我が家の縁側は東西方向にピッタリ合っている、とズーッとそう思っていました。

     

    我が家の北側の窓も、当然東西方向にピッタリ合っているはず。春分の日と秋分の日には、太陽は真東から昇り、真西に沈みます。この時期には、北側の窓から家の中に日が差し込むことはありません。夏至の頃には太陽高度が高くなり、夏至には東西方向から約30°ほど北側にずれた方向に、昇り沈みします。この時期には、朝日や夕日が、北側の窓からも家の中に差し込むようになります。

     

    何年か生活するうちに、暑い時期には、北側の窓から西日(夕日)は家の中に深く差し込むのに、東日(朝日)は浅くしか差し込まないことに気づきました。どうして? 長い間の疑問でした。

     

    南側の窓からの太陽光の差し込みの違いにも気づかなければいけないのですが、南側には多かれ少なかれ、何らかの日よけの策が施してあって、普通この違いには気づきにくい。

     

    ネットワークの進展で、高解像度の航空写真(衛星画像とも言う、Google Mapなど)が、個人で簡単に閲覧出来るようになりました。

     

    Google Mapで初めて我が家を見た時に、長手方向が東西方向にピッタリと合っているはずと思っていたものが、実はピッタリではなく、東側が少し北側に振れていることに違和感を覚えました。どう見ても、東西方向にピッタリではなく、明らかにずれています。そのずれは、約7°。

     

    家を建てる前に、方位磁石で時間をかけて方向を確認したはずなのに、何故ずれているのだろう。近くに、磁石を狂わす鉄モノでもあったのかな。自分の測り方が、いい加減だったのかな。いや、そんなはずはない。このずれには疑問を持ちましたが、その時は、その原因はよく分かりませんでした。

     

    最近になって、やっとこの疑問が解けました。結局のところ、私の無知、思い込みから起きているものでした。

     

    「方位磁石は南北を指すもの」。この思い込みが間違いの始まりです。小学校の理科では、このように教えられています。細かいことが気になる先生でしたら、追加の説明があるのでしょうが、教えられる側からすると、ただし付きで説明されると、反ってわかりづらくなることもあります。それで、ほとんどの先生は、「方位磁石は南北を指すもの」と簡単、明瞭に教えるのでしょう。

     

    方位磁石のN極は概ね北を指しますが、正確には真北を指していません。真北(北極星の方向)は方位磁石が指す北とは、ずれており、普通N極は真北より西にずれた方向を指します。このずれの角度は偏角(偏差)と言われています。

     

    偏角の向きと大きさ(真北から何度ずれているか)は地域によって異なっており、国土地理院地磁気測量ホームページに掲載されています。また、時間的にも変動しています。大雑把に言って、西日本では西に約7°程度(西偏7°)ずれています。これはGoogle Mapを見て気になった我が家のずれ、約7°に正に一致します。

     

    当然ながら、Google Mapには空港の滑走路も写っています。滑走路は長くて一直線なので、すぐに気付きます。これを見ると、広島空港の滑走路は、ほぼ東西に走っていることが分かります。

     

    その西端(広島市側)に、「10」の数字が写っています。一方、東端(福山市側)には、「28」の数字が見えます。一見すると、「10」なのか、「01」なのか、分かりません。同様に、「28」なのか、「82」なのかも判断しにくい。たまたま、これら0、1、2、8の数字は逆さまにしても、0、1、2、8に見えるからです。逆さまにしたら数字にならない他の数字が、写っていれば、どちらなのか直ぐに正しく判断出来るのですが。

     

    この数字の意味が直ぐに分からないにしても、この数字が着陸する航空機のパイロットにとって重要なもの、ということは想像がつきます。そのように考えれば、例えば西端にある文字は、西側から滑走路に着陸しようとする航空機のパイロットから見える「10」だと理解出来るはず。東端側も同様に、東側から滑走路を見た時に見える「28」だと理解しなければいけません。

     

    この数字は滑走路の方向を表している数字で、滑走路番号と言われるものです。磁北(真北ではない)からの時計回りの方位角(°単位)を、1/10した数字で表してあります。ただし、磁北は0°ではなく、360°と表されます。従って、滑走路番号は01〜36の数字(小数点以下は表示しない)で表されることになります。36は磁北、27は磁西、18は磁南、09は磁東方向となります。

     

    広島空港の西端側から着陸する航空機は、「10」方向、すなわち磁北から時計回りに100°の方向に向けて、着陸しなければいけません。同様に、東端側からの着陸だと、磁北から時計回りに280°の方向に向けて、着陸しなければいけません。広島空港周辺の偏角はほぼ西偏7°ですから、100-7=93≒90°、または280-7=273≒270°となり、ほぼ真東または真西に向かって着陸しなさいということになります。Google Mapでは、広島空港の滑走路は東西方向(真横)に走る一直線となって写っているはず、ということになります。

     

    航空機の飛行をサポートするこのような方向に関する情報は、磁方位が使われています。それは航空機の機首方位を表す磁気コンパスや、飛行方位計(ジャイロコンパス)で出力される情報が、磁方位で得られるからです。真北を正確に計測するのは、結構面倒なことなのです。

     

    思い込みの間違いによって、我が家の縁側は東西方向から少しずれた方向になってしまいましたが、30年間何も支障はありませんでした。しかし、方位磁石に限らず、思い込みによって支障が起きないように、小さいころ学校で教わったその他の基礎知識も、改めて勉強し直してみる必要がありそうです。

     

    チーフアドバイザー(技術)山本茂之

     

    ※このコラムは2014年6月4日に配信されたメルマガ「広島校だより Vol.093」に掲載されたコラムです。メルマガ「広島校だより」を配信希望の方は、広島校だよりからお申込みください。