トップページ > 経営支援・相談 > コラム「モノ・知・技」 > 第59回「ベビーパウダーと鉛筆」

第59回「ベビーパウダーと鉛筆」

  • 12月の執筆者は、チーフアドバイザー(技術)山本 茂之です。

    「ベビーパウダーと鉛筆」

    乳幼児のいる家庭では、ベビーパウダーは常備品です。今年の夏のような猛暑の時期には言うまでもなく、一年中欠かせない必需品です。

     

    特に、暑い時期に乳幼児に見られる汗疹(あせも)やただれに対しては、ベビーパウダーは効果的なものです。また、肌が擦れ合う股や脇にも効果があります。ネーミングにある乳幼児に限らず、相撲力士にも、これを愛用している人が多いようです。 

     

    ベビーパウダーは白っぽい粉ですが、その成分は滑石の粉末とトウモロコシのデンプン粉末から成っています。グランドシニアやシニア世代になっている元お母さん達ならば、ベビーパウダーとは言わず、天花粉(てんかふん)と言う人が多いかもしれません。日本に昔からある天花粉は、キカラスウリの塊根から加工されたデンプンが使われています。天花は、天から降る花という意味で、つまり雪のことです。

     

    ベビーパウダーが汗疹やただれに効果があるのは、微粒子による毛細管現象で肌表面の水分を吸い上げること、デンプンによって適度な湿度を保持すること、滑石の薄片状(フレーク状)の微粒子による滑り効果があることが重なって起きているからです。

     

    ベビーパウダーは、人の肌表面への効果に限ったものではありません。昔、麻雀をよくやりましたが、雨降りや湿度の高い日には麻雀牌同士がくっついて離れず、困ったものでした。こうなると、ベビ−パウダーの出番で、これを牌にまぶして布で軽く拭くと、牌をツモるのがスムーズになり、たちまち正常な進行に戻ることが、懐かしく思い出されます。 

     

    一見よく似たものに白粉(おしろい)がありますが、こちらはファンデーションが普及する以前に、ベースメークとして使われていたもの。ファンデーションは、顔全体に塗って、シミ、そばかす、小皺、毛穴等の肌の色の不均一や凹凸を均等にして、美しく見せるためのものですが、白粉は、今はファンデーションの上に、仕上げや化粧直しのために施されていて、自ずとベビーパウダーとは用途が異なっています。白粉には、ベビーパウダーの成分である滑石やデンプン粉末が含まれていますが、これら以外にも各種の微粉末が混合されています。 

     

    ススは有機物が不完全燃焼した時に出来る、炭素の黒っぽい微粒子です。昔、かまどや風呂釜の煙突の内面に溜まったススを、薪がよく燃えるように、ワイヤーブラシで払い落としたものです。 

     

    炭素(カーボン)の元々の意味は、木炭を表す言葉から来ています。炭素には、同素体と言われる数種類の物質が存在します。同素体は同じ元素(この場合は炭素)から出来ていながら、炭素原子同士の繋がり方が異なり、その結果、化学的・物理的性質が異なるという特徴があるものを言います。

     

    炭素の同素体では、昔からダイヤモンドと黒鉛(グラファイト)がよく知られています。その他にも、フラーレン、カーボンナノチューブ等があります。これらは全て結晶質です。

     

    ダイヤモンドは、ダイヤモンド構造と言われる、正四面体の中心に位置する1個の炭素原子に、正四面体の頂点に位置する4個の炭素原子が結合したものです。言うまでもなく、色は透明。

     

    黒鉛は六角形状の基本構造が蜂の巣状に平面的に繋がった層状構造をしています。色は黒色。この構造は六角形自体および同じ面内の六角形同士は強固に結合していますが、六角形とその上下方向にある別の面の六角形の間の結合は弱いという性質を持っています。それで薄片状(フレーク状)になりやすく、これが層状物質と言われる由縁です。単原子の厚みのものはグラフェンと言われ、面白い性質を示すことから、応用研究が進んでいます。

     

    黒鉛は、英語のBlack Leadの直訳です。これは鉛が含まれていると思われていた名残で、日本語では今もそのまま使われていますが、英語では今は別名のGraphite(グラファイト)が使われています。

     

    ススは木炭、活性炭等と同じく、結晶構造を持たない非晶質(アモルファス)の炭素で、微粒子の凝集体です。タイヤ等に使われているカーボンブラックと言われるものは、工業的に品質を制御しながら生産されるもので、炭素の微粒子と言う意味ではススと同じようなものです。 

     

    ベビーパウダーの白っぽい粉の中に含まれる滑石の薄片状微粒子が、パウダーのスベスベ感(滑り効果)を演出していることは既に述べたとおりです。一方、同様な滑り効果のある黒っぽい粉は、薄片状物質の黒鉛ということになります。 

     

    黒鉛は、産業界では固体潤滑剤や耐火物として、様々なところで使われています。もっと身近なところで言えば、黒鉛は鉛筆の芯に混ぜ込まれています。鉛筆の芯は黒鉛と粘土を練り混ぜて、焼き固めたもの。粘土は黒鉛粒子を固め、鉛筆にした時の強度を演じるためのもの。粘土も黒鉛と同じく、薄片状物質です。 

     

    黒鉛は文字を書く時の、適度な柔らかさと濃さを演出しています。鉛筆は硬度表記によって硬さを表すことになっていますが、標準的なHBの場合で、黒鉛:粘土の比率は、おおよそ7:3となっています。B、2B、3Bと数字が増えるにつれて、黒鉛の割合が多くなり、文字の濃さ(黒さ)が増し、かつ軽い力で柔らかく滑らかに書けるようになります。逆に、H、2Hと数字が増えるにつれて黒鉛の割合が少なくなって、硬くてザラザラ感が多くなり、また薄い文字となって、芯もなかなか減りません。 

     

    紙や黒鉛が利用できなかった古代には、動物の皮に鉛を擦り付けて、絵や字らしきものが描かれていました。鉛筆の名前の由来はここにあります。原稿の校正や試験の採点で使われることの多い赤鉛筆や青鉛筆に代表される色鉛筆は、それぞれの文字の色から付いているネーミングです。色鉛筆では、黒鉛や粘土は使われておらず、焼き固めてもいません。色鉛筆では、それぞれの色を出す顔料や、書き味を出すための滑石やロウが混ぜられており、それらがノリで固められています。だから、色鉛筆は柔らかです。

     

    普通の鉛筆では黒い文字が書けます。赤鉛筆や青鉛筆等とのアナロジーで言えば、単に「鉛筆」と言うのではなく、「黒鉛筆(くろ・えんぴつ)」と言えばピッタリです。書ける文字の色ではなく、これを鉛筆の芯の構成物質から見た「黒鉛筆(こくえん・ぴつ)」と読んだとしても、必ずしも間違った表現になっていないのは、面白いことですね。「黒鉛筆(くろ・えんぴつ)は黒鉛筆(こくえん・ぴつ)」と覚えれば、鉛筆の芯が何で出来ているか、忘れることはありません。

     

    白と黒の色の違いはありますが、ベビーパウダーに含まれる滑石の白い薄片、鉛筆に含まれる黒鉛の黒い薄片は、いずれも滑らかなスベスベ感を演出している隠れた役者ということになります。 

     

    チーフアドバイザー(技術)山本茂之

     

    ※このコラムは2013年12月4日に配信されたメルマガ「広島校だより Vol.087」に掲載されたコラムです。メルマガ「広島校だより」を配信希望の方は、広島校だよりからお申込みください。