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第53回「ボケとツッコミ」

  • 6月の執筆者は、 チーフアドバイザー(技術)山本 茂之です。

    「ボケとツッコミ」

    最近、車を車検に出しました。車検に出す前に気になっていたブレーキの「キーキー音」は、今は全くしなくなりました。尤も、急ブレーキで強く踏み込んだ時には鳴るかもしれませんが・・・。

     

    言うまでもなく、自動車のディスクブレーキは、ディスクローターとパッドとの間の摩擦力によって、運動エネルギーを熱エネルギーに変換して、制動力を発生させています。場合によっては、音にも変換されて、いわゆる「ブレーキ鳴き」と呼ばれる現象も起きますが、異常ではありません。

     

    しかし、車検に出す前に見られたような「キーキー音」は、異常なものと言えます。ディスクブレーキでは、ブレーキの使用が進むにつれてパッドが摩耗して薄くなっていきます。そのうち、パッドウェアインジケータと呼ばれる金属部品が、ディスクローターに直接に接触するようになり、これによって意図的に金属音の異音「キーキー音」を出して異常を知らせ、交換のサインを出す仕組みになっています。

     

    正常か、異常か、完全に聞き分けるのは難しいのですが、ブレーキング時に常時鳴いているような場合は異常である可能性が高いので、すぐに点検を受けた方が安全と言えます。

     

    また、ブレーキパッドが摩耗してなくなってしまうと、パッド部分の裏金が直接にディスクローターに接触することによって、激しい異音や、「ガーガー」、「ガリガリ」といった音がして、ブレーキペダルにもその感覚が伝わってきます。

     

    二つの物体が擦れ合う現象は、日常生活や機械装置においては、しばしば目にする現象です。ブレーキの場合は、この現象を、車を止めるという目的のために、ポジティブに利用している機械要素ということになります。

     

    しかし、大抵の場合には、この現象は不都合なネガティブな結果をもたらすものです。機械装置の中で多く使われている軸受は、回転する軸を支える機械要素ですが、長期間使用しても軸や受け部に摩耗が起きて回転しにくくならないように、低摩擦で回転出来るように工夫されたものです。不都合が起きて、その軸受を交換しなければならない、というようなことは、普通は、ほとんど起こりません。

     

    電車のパンタグラフと架線でも、擦れ合いが発生します。この場合には、構造上、軸受は使えません。 

     

    パンタグラフには、架線と接触する部分に、スライダーと言われる摺り板が取り付けられています。電車は架線との接触状態を常時保った状態で走行しなければいけないため、このスライダーは走行中に常に摩擦された状態になります。したがって、使用しているうちに摩耗してくるので、その部分だけ交換できるようになっています。

     

    架線を交換するのは、保守上、相当な手間がかかります。スライダーを交換するほうが保守的には簡単です。そのために、最近の電車では、架線の摩耗が少なくなるように、カーボン(グラファイト)製のスライダーになりつつあります。電車の屋根の上が黒く汚れているのは、カーボン製のスライダーを使用している証左です。

     

    直線走行部分の架線は、緩やかなジグザグ状に張られており、スライダーの摩耗箇所が一点に集中して起きることを防いで、少しでも交換時期を延ばすような工夫が、架線側にもなされています。

     

    電気機関車は、1つのパンタグラフで500〜700A(機関車全体では1500A程度)の大きな電流が流れます。そのため、電気抵抗が高いカーボンスライダーでは発熱してしまい危険なので、今でも鉄・銅系の合金が使用されています。機関車の上面や側面が茶色に汚れているのは、そのためです。

     

    二つの擦れ合いの例を取り上げましたが、ディスクローターとブレーキパッドの擦れ合いでは、パッドが犠牲になって、より摩耗するようになっています。スライダーと架線の擦れ合いでは、犠牲の役割はスライダーが担っています。正に、陰の功労者と言ったところです。

     

    銃筒と銃弾の関係も、二つの擦れ合いの感があります。銃筒が摩耗してしまっては、銃筒そのものが直ぐに使えないようになり、話になりません。消耗品的な銃弾側が摩耗するように、銃弾の外側はギルディングメタルと言われる、より柔らかい真鍮で覆われています。より硬い銃筒の内面の微小な加工痕が、発射された銃弾の表面に転写されて、その銃筒に特有のパターンから、発射された銃筒を特定する手法は、捜査陣にとって有力な捜査手法として役立っています。

     

    漫才におけるボケとツッコミも、さながら性質の異なる二つの「言葉」の擦れ合いの感があります。良いコンビならば、絶妙なやりとりで、摩擦ゼロの状態です。もし、一方が摩耗してしまって、補修が必要となるような言葉の擦れ合いであるならば、それは取りも直さず、即座にコンビを解消した方が良い、とのシグナルかもしれません。

     

    チーフアドバイザー(技術)山本茂之

     

    ※このコラムは2013年6月5日に配信されたメルマガ「広島校だより Vol.081」に掲載されたコラムです。メルマガ「広島校だより」を配信希望の方は、広島校だよりからお申込みください。