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第51回「マスクについて」

  • 4月の執筆者は、 チーフアドバイザー(モノづくり)大村卓一です。

    「マスクについて」

    温暖化が進行していることははっきり判るようになっているのですが、つい先日過ぎていった冬は随分寒かった。寒さが苦手と言うわけではないのだけれど呼吸器系があまり丈夫でない私は、風邪に対する備えに気を使うようになっている。例年通り、インフルエンザの予防注射も早々に受け、11月には暖かいヒートテックの下着やマスクをそろえ、今シーズン、少し加齢現象を自覚し始めたのを期に新たにネックウォーマー/レッグウォーマーと言う新しい防具も使うことにして冬の到来に備えた。そんなに注意していても風邪を患い掛かりつけの医者の厄介になったのだが、お陰さまで症状は軽くてすんだ。しかし、いつも元気な女房殿は予防注射をしていたにも拘らず、A型インフルエンザを患ってしまい、ずる休みも含め約1週間床についていた。熱に弱い人なので随分しんどかったようだ。井戸端会議の情報によるとどうも昨シーズンの風邪は普段元気な人が罹ったようだ。


    そんなことがあるのだろうか?


    SARSが始めて流行りだした頃入手していた、アルフレッド・W・ロスビー著、西村秀一訳の『史上最悪のインフルエンザ』と言う本を復習した。第1次世界大戦の最中、1918年秋と1919年冬の2度にわたる大流行で戦争当事国の間では戦死者の3倍、全世界では数千万人が亡くなった、あのパンデミック『スパニッシュ・インフルエンザ』を主題にしている。スパニッシュ・インフルエンザの死亡率が特に高いということはなかったようで、死亡率は数%程度だったという、すると全世界で数億人以上が感染していたことになる。当時の人口、およそ20億人と言う数字を入れてみると感染率はすさまじかった。このインフルエンザの死亡者の占める年齢層別分布図を見ると特徴的なことは、W型と言って幼児と老人も高いのだが20-30代のところにピークがあるとのことだ。


    この時も元気な人が罹っていたということになる。


    何故そうなのか、それはこのインフルエンザの感染のメカニズムが明らかになるときを待たなければなるまいが何か理屈があるなら早く極めてほしい。私が2012年度冬季のインフルエンザに罹らなかったわけが判ると、今後の対策に繋がるのだから。


    スパニッシュ・インフルエンザを完全に排除した地域があった。太平洋の真ん中に位置する米領サモアだ。地理的条件はほとんど同じ隣の西サモアでは島民の約20%、7500人が亡くなったというのに。米領サモアの知事は、ポリネシアの島民が麻疹、赤痢、そしてインフルエンザなどに対する抵抗力がぞっとするほど弱いことをよく知っていたので、スパニッシュ・インフルエンザが世界的に流行してきていることを察すると島に入出港する船舶に厳しい水際検疫を実施した。インフルエンザ感染患者は隔離し上陸させないことに加えて所持品を燻蒸消毒することを徹底した。近くの島から訪れる船舶に対しても手を緩めなかった。隣の西サモアの統治者から、「恩知らずなやり方」との反発もあったようだが厳重な監視体制を引き例外を認めない強い行政官の存在がこのパンデミックを救った。西サモアは不幸なことに統治者が島民の資質に疎かった。


    最善の感染症対策は接触しない、近づかないということ。


    また、大変興味ある別の対処の仕方が紹介されていた。 (市議会に相当するという脚注がある) サンフランシスコ理事会が全ての市民にマスク着用を義務付けたと言うのである。
    そんなことを強要するの? そんなこと出来るの?


    「・・・・2人以上の人が集まる場所に行くものは皆、食料品や衣料品などを取り扱ったり届けたりする職業に従事する人は皆、食事をするとき意外、目の細かいガーゼのような素材を4枚重ねにしたマスクを着用すること」と言うのがマスク着用条例だった。スパニッシュ・インフルエンザは東部から流行が始まったということで、西部では色々な対策が講じられ、マスク着用はその一つ。事前のキャンペーンも奏効して条例が発効する前に着用率が挙がり患者や死者の数が著しく減少したことに加え、市民からの「屈辱的であり、憲法で保障されている個人の自由の権利に抵触する」というブーイングも高って来たのを受けて条例は3週間後に解除された。この間条例違反者数百人に対し5ドルの罰金刑から30日の懲役刑が下されている。しかし、年が明けて再びスパニッシュ・インフルエンザが流行始めるとこの条例は再登場した。マスクの効用をある程度市民が認めていたということなのであろうが、「もし今回、市当局による人民に対するマスク着用強制を許せば、次はワクチン接種の強制あるいは人体実験そのほか、人間の尊厳を冒すようなどんなことをも許すことになるのだ」と言う反発も大きかった。


    1918年ー1919年、2回のスパニッシュ・インフルエンザが流行した期間中のサンフランシスコ市の被害は55万人の人口に対し5万人超の罹患者と3500人の死亡者で死亡者の2/3は20ー40代の人たちだったという。エドウィン・ジョーダン博士はこの時期の対策を総括して、「一般大衆にとってマスクを適切に着用する上で実際の難しさは相当のものだったと考えるが、マスク着用は社会全体の予防のためと言うよりむしろ個人レベルの予防手段として位置づけるべきであろう」とコメントしている。マスク着用に拘らない私としてはこれだけの被害ですんだと理解したい。

     

    ARE YOU POURING ON THE POUNDS ?
    と言うソーダ制限令のキャッチコピーの解説記事を見たとき、説明は難しいのだけれどマスク着用条例との類似性を感じた。「肥満は毎年600万人の志望に繋がっている。規制を遅らせる理由は何もない」と言う規制を実施しようとするニューヨーク州当局に対し、「ソーダ飲料が好きなわけではないが、政府が決めることではない」というニューヨーク市民のコメントが載っていた。

     

    ものづくり支援チーフアドバイザー 大村卓一
     

     

    ※このコラムは2013年4月3日に配信されたメルマガ「広島校だより Vol.079」に掲載されたコラムです。メルマガ「広島校だより」を配信希望の方は、広島校だよりからお申込みください。