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第50回「【落ちる】と【昇る】」

  • 3月の執筆者は、 チーフアドバイザー(技術)山本茂之です。

    「【落ちる】と【昇る】」

    全国に神社は81,000社余りあります。同一の信仰対象を持つ神社が全国に20社以上あるものに限れば、約50,000社です。信仰対象別にランキングすると、第1位が八幡信仰で全国に7,800社余り、第2位が伊勢信仰で4,400社余り、第3位が天神信仰で3,900社余り、と続きます。

     

    神社数第3位の天神信仰は、学問の神様と崇められる菅原道真公を「天神様」とする信仰です。神社名としては、「天満宮」という名前の付いているものが代表的。「天満宮」に類する、「天満神社」、「天満天神社」、「天神社」、「菅原神社」等も全て当てはまります。

     

    菅原道真公は、亡くなって1110年が経とうとしている現在でも、実に多くの地域で、また多くの人達(現在は特に受験生も多い)によって愛されているのには驚くばかりです。

     

    菅原道真公は公卿・学者・文人・政治家としてマルチな才能を発揮し、時の天皇に重用され、右大臣まで務めましたが、策略により大宰府権師(大宰府の長官代理、実質的には太宰府長官)に左遷され、一度も京都に帰ることなく、赴任して約2年後の西暦903年に、失意のうちにその地で亡くなりました。
     

    道真の死後、平安京では疫病、日照り、皇太子の死亡、等の異変が相次ぎました。極め付けは、930年に宮廷の建物に落雷があり、多数の死傷者が出たことでした。この出来事により、道真の怨霊は雷神と結びつけられることになりました。

     

    現在の「北野天満宮」の場所には、農作物に雨の恵みをもたらす火雷天神という地主神が以前に祀られていたことから、それが道真の怨霊と合体したものと言われており、怨霊の怒りを鎮めるために創祀されたのが「北野天満宮」ということになります。

     

    「天満」の名は、道真の神号である「天満(そらみつ)大自在天神」から来たもので、「道真の怨霊が雷神となり、それが天に満ちた」ことに由来しています。

     

    雷が起きると、落雷よけに「くわばら、くわばら」と唱える風習がありますが、これは道真の領地の地名であった「桑原」にだけは一度も落雷がなかったことから、後世に人々が唱えるようになったと言われています(他にも諸説あり)。

     

    雷は天から地へ【落ちる】(落ちてくる)ものです。天からどこに落ちてくるかわからないところも、一層恐怖心を高めることになります。
     

    ところが、逆に地から天へ【昇る】雷もあるのです。雷が起きる(起きた)時には、雷鳴と稲妻の二つの現象が見られますが、【昇る】雷では、この稲妻の写真を見ると、確かに立っている樹木のような形で映っています(【落ちる】雷では樹木を逆さまにしたような形)。

     

    雷は雲の中で出来ることは誰しも知っています。雲ならば、どんな雲でも雷が起きるかというと、起きる場合と起きない場合があります。

     

    雷の正体は静電気です。静電気は二つのモノがこすれ合って発生します。雲の中の二つのこすれ合うモノとは、小さな粒である氷晶(氷の結晶)と大きな粒である霰(あられ)です。

     

    地表で大気が暖められて起こる上昇気流の中で、水滴(雲の粒)が発生して雲となり、夏の暑い時期のように、気流の規模が大きいほどこの雲は空高くまで発達します。上空にいくほど低温のため、この水滴は氷の粒(氷晶)になります。雲の中の水蒸気はどんどん氷に付着して、氷の粒は急速に成長します。成長すると重くなって落下しようとしますが、強い上昇気流で舞い上げられてなかなか落ちることが出来ません。落下したり、上昇したりを繰り返しながら、更に大きな粒の霰になっていきます。大きさの違う氷晶や霰は、落下・上昇速度も異なるので、互いに衝突を繰り返し、この時にこすれ合いが起き、静電気が発生します。

     

    粒同士が衝突した時に、小さな粒(氷晶)から電子が叩き出されて正の電荷に帯電し、叩き出された電子を吸収した大きな粒(霰)が負の電荷に帯電します。そのうち、大きな粒(霰)は重いので、次第に雲の下の方に集まるようになり、小さな粒(氷晶)は軽いので、上昇気流によって雲の上の方に集まるようになります。つまり、雲の下部が負に帯電し、雲の上部が正に帯電していきます。この雲底に集まった負電荷によって,地上では静電誘導により正電荷が誘導されます。

     

    このように、電荷が溜まってくると、雲の下部が負に帯電、雲の上部が正に帯電、地上が正に帯電の状況になり、初めは雲の下部の負電荷が、距離が近い雲の上部の正電荷に向かって高速で移動します。これが雲内放電(いわゆるゴロゴロと音がする)です。雷雲が地上低く垂れこめている時には、地上に誘導された正電荷の方が距離的に近いので、雲の下部の負電荷は地上の正電荷に向かって高速で移動します。移動の途中で、空気分子に衝突して更に多くの電子を叩き出し、カスケード的に枝分かれしながら、地上に向かって進みます。これが天から地へ【落ちる】雷です。

     

    これに対して、冬場の日本海地域で起こる雷に、【昇る】雷が見られることがあります。冬場には、中国大陸で氷点下にまで冷やされた大気が日本海を渡ってきますが、そこには水温が10℃ほどの対馬暖流が流れています。そのため、渡ってくる大気は、下から温められて軽くなり、上昇します。その際,海から蒸発した水分も上空に運ばれるため、雲ができます。冬場には、夏のような強い熱エネルギーはないので、上昇気流も弱く、雲は空高くまで成長しません。また、風が強く、雲の上層と下層では風の強さが違うために,雲は斜めに上昇するようになります。低く斜めに横たわったような雲になる訳です。

     

    このような状況では、雲の下部に溜まった負電荷が地上の正電荷に高速で移動する普通の雷だけでなく、雲の上部に溜まった正電荷に誘導された地表の負電荷が、この雲上部の正電荷に向かって高速で移動する雷、いわゆる【昇る】雷も起こるのです。

     

    要するに、縦型に空高く伸びた雲では【落ちる】雷が発生し、横型に低く垂れこめた雲では【昇る】雷も時たま発生する、ということになります。

     

    受験生の皆さんは、「学問の神様」としての道真に祈願しつつ、「天神」としては地に「落ちない」ことを願い、さらに、【昇る】雷に願いを込める、ことで大願成就されんことを願いたいと思います。

     

    チーフアドバイザー(技術)山本茂之

     

     ※このコラムは2013年3月6日に配信されたメルマガ「広島校だより Vol.078」に掲載されたコラムです。メルマガ「広島校だより」を配信希望の方は、広島校だよりからお申込みください。