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第48回「歯痛について」

1月の執筆者は、 チーフアドバザー(ものづくり)大村卓一です。

「歯痛について」

 歯が痛んだ。

そのことだけが原因ではないが肩も凝ってきていた。

長時間の痛みは体のあちこちに悪影響を及ぼしつつあった。

この歯痛の原因は1ヶ月くらい前にあった。

金属クラウンが外れそうになっていたので、珍しく早めに対応をした。

クラウンが外れたとき嫌な予感がした。

クラウンの下に残っていた第1大臼歯に割れが入っているので早晩痛みが出てくるからと云うことで抜歯することになった。

嫌な処置が始まったが麻酔が効いていたのでその時は堪えられ、麻酔が切れても痛み止めの薬を飲むと翌日には治まっていた。

 

それから約1月後、全く忘れていたのだが別件で歯医者を訪ねた。

その時突然そのことを思い出した。

今なら、完治した状態で新年を迎えられる、という考えが咄嗟に頭をよぎり、「先生今からやってもらえますか?」と声をかけてしまった。延ばせるものならそのままにしておきたかったのに。

第2大臼歯と第2小臼歯を支台歯として活用するために削ってブリッジをかけるというあまり痛みはなさそうな治療法を説明されたので、少し安心してあのイスに深く腰を掛けた。

すると麻酔をするという。

何でや?

「歯根の近くまで削るので沁み対策です」という。

痛くないならいいや。

タービン・バー・エンジン・2wayポイント・抜歯鉗子・へーベルなど、これらが目に入るから歯医者に来るのは嫌だと感じている器具類が並び治療が始まった。

痛くはなかったけれどずいぶん長くかかるなー、と感じながらブリッジが出来るまでのプロセスを想像してみた。

ブリッジのための型取りは上下1回づつ、合計2回。

出来上がりの形状は3本の歯にまたがる1本のブリッジ。

とすると2つの型をどこかで合体させるはず。

位置の基準、特に高さ方向、はどうしているのだろう?

歯の噛み合わせは微妙なもので、髪の毛1本挟まったら十分認識されるはずだから高さ方向には50μm位の精度は必要になる? 

そんなことを考えていたら看護婦さんが模型を持ってきて、先生が説明してくれた。

 

ブリッジづくりのプロセスは、

  1. 3分くらいで固まる印象材を使って上顎・下顎全体の歯型を取り、それに石膏を流し込んで嵌合模型をつくる。 
  2. その模型を用いて作成するブリッジの部分にワックスを盛りヘラで歯の外形を整えた後、少し温度を上げた状態で上下の石膏型を嵌合状態に固定すると、ブリッジの噛み合わせ形状がワックスに転写しブリッジ模型が出来上がる。
  3. ワックス製ブリッジ模型に湯口を含む溶融金属の通り道を付加して石膏鋳型を作る。
  4. 湯口から溶融した義歯金属を流し込む。この時ワックスは溶融して目の粗い石膏型をすり抜けて型の外に排出され、残った空間に溶融した金属が侵入する。型全体が冷えたら石膏を壊しブリッジを取り出す。
  5. ブリッジを所定の位置に接着剤で固定し、嵌合状態を微調整して完成。

というステップを踏むのだそうだ。

 

嵌合模型を作ってブリッジという局部の型取りをしているのだから精度は高いのだ。嵌合模型で実際に上下の顎を動かしてみるとほとんど遊びは見られないし、自分の噛み合わせで確認してもずれているとすぐわかる。1本1本の歯がそれぞれ相対している部分の形状は複雑であるのにピッタリ嵌合する位置があるのだから不思議である。乳歯が永久歯に代わるとき嵌合情報、即ち噛み合わせ部分の歯の形状は完全に引き継がれるのだろうか?

それともアバウトな形状ができた後で、日々のかみ合わせの繰り返しで最適な嵌合ができるようになるのだろうか?

 

冒頭の歯痛はそんな治療を終えて2時間後から約6日間つづいた。

痛み止めを継続して服用した。特に冷たい飲み物を飲むたびに、沁みるような痛が襲ってしばらく続いていた。

ブリッジが完成したとの連絡を受け再びその歯科医を訪れ、なぜ痛かったの?
と聞いてみた。

歯の外周はエナメル質で、その下に象牙質があり、中心部に神経などから構成される歯根がある。これがセメント質と歯根膜を介し歯槽骨に埋まっていて歯根の神経は内部組織につながっている。

「今回の歯痛の原因は、抜歯した部分にブリッジをかけるため健常な支台歯のエナメル質を削ったことによるのです」

と説明してくれた。

エナメル質を除去しても象牙層があるじゃないですか、と問いかけると歯科医は
「象牙質は歯が受ける熱や硬さなどの刺激の伝搬役を担っているんです」
という。

歯の構造を解説してもらって痛みの理由は分かったけれど、そんなに痛くなることが分かっているなら初めから痛み止めを処方してほしかった、と愚痴った。

ブリッジが入り、やっと痛みから解放されるはずだ。

これで歯痛の不安からしばらくは完全に解放されるのだ。

 

家に帰って歯の構造を調べてみた。

電子顕微鏡写真を見ると象牙質はヒドロキシアパタイトとコラーゲン線維のような有機質と水からなる組織で、エナメル質との違いは化学的組成もあるが歯神経が存在する歯根にまで達する微細な貫通孔が無数にあるスカスカの構造である。ブリッジを作るために支台歯のエナメル質を削ってしまったので象牙質が露出して歯神経が食べる・飲むという動作を行う度に周辺の刺激をもろに受けていたのだ。

仮歯を入れてもらっていたがエナメル質のような遮蔽効果はほとんどなかったことになる。

 

今回の痛みは本当につらかった。

私が経験したその痛みがなくなるためには、エナメル質に匹敵する緻密な構造の仮歯材料を開発することあるいは抜けた部分の歯を再生させる技術を実用化することしかない?

エナメル質のような緻密な構造体を体温付近の低温で合成するにはとても大きな技術革新が必要になるだろう。

一方、歯の再生技術には無修正で完璧な嵌合が前提となる。それがないと嵌合のためにまたエナメル質を削るという治療が残ることになるから。

そのあたりを先生に聞いてみた。

「私にはわかりませんから、生まれ変わって勉強してください」
という答えが返ってきた。

私が生きている間はまだ、一般的な治療にはならないということのようだ。

 

平成24年も知らないことを多くの方に教えてもらった、平成25年も私にとって発見が沢山あることを願っている。

  

 

チーフアドバイザー(ものづくり)大村 卓一

 

※このコラムは2013年1月10日に配信されたメルマガ「広島校だより Vol.076」に掲載されたコラムです。メルマガ「広島校だより」を配信希望の方は、広島校だよりからお申込みください。