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第47回「衣類と乳牛」

12月の執筆者は、 チーフアドバイザー(技術)山本茂之です。

「衣類と乳牛」

ジャージーと言えば、学校での体操着を連想します。体操着の場合には、上半身に羽織る物をトレーニングシャツ(トレシャツ)、下半身に穿く物をトレーニングパンツ(トレパン)と言うことのほうが多いかもしれません。ジャージーは、今では体操着と言うよりも、家庭内でリラックスする時の室内着として着用している人も多いのでは。尤も、屋外で愛用している人達も、多々見かけるところです。

 

これらジャージーの着やすさは、ジャージー特有の伸び縮みしやすくて、動きやすいことから来ています。伸び縮みしやすいのは、ジャージーが織物ではなく、編物だからです。

 
言うまでもなく、編物は、一本の糸を使って結び目を作り、その中に糸を通して輪を作る要領で一目ずつ形作っていく手順で編み上げられたものです。編むこと自体が、最終製品を三次元的に形作っていっている、ということも編物の特徴です。伸び縮みしやすいという編物の性質は、一本の糸でこの結び目に輪を作って引っかけている構造からきています。
 
 一方、織物は、縦糸と横糸の二本の糸を使って、この直交する二本の糸が上になったり下になったりするように一段ずつ織り上げられたものです(平織り・綾織り・朱子織りの3種類あり)。最終的には、平面上の生地に織り上げられます。実際の衣類にするには、この生地を立体裁断、平面裁断して、それら裁断されたパーツ同士を縫い上げて最終製品に仕上げていくことになります。この構造から、織物は伸び縮みしにくいのです。
 
伸び縮みする布としては他にもメリヤスがありますが、これは靴下やインナーと言われる肌着、または生地そのもののことを言っている場合が多い。これに対して、アウターのカジュアルウェアをジャージーと言い、これらをひっくるめた編物全体を言う時は、ニットという言葉が使われています。
 
ジャージーの語源はイギリス王室属領のジャージー島から来ています。ジャージー島では漁業も盛んですが、その漁師さんの作業着の生地が、まさにこのジャージーだったからです。
 
ジャージー島に由来するもう一つのものがジャージー牛です。ジャージー牛は乳牛の代表種であるホルスタインほど知られてはいませんが、世界的に広く飼育されている牛種です。日本では岡山県蒜山高原で日本全体の1/3近くの3,600頭余りが飼育されています。
 
ジャージー牛とホルスタイン牛を比べてみましょう。牛種名は、原産地のジャージー島由来に対して、ドイツ最北端のシュレースヴィヒ=ホルスタイン州(より遡れば、オランダのフリースランド)に由来。毛色は褐色に対して、白黒斑。ホルスタイン牛は、白地が多いので、白地に黒斑があると思いがちですが、黒地に白斑が正解。四本の肢、尾の先端、鼻の六箇所は必ず白斑なので、日本では以前は六白牛とも言われていました。体高・体重は雄牛で、130cm・400kgに対して、141cm・650kg、雌牛で140cm・700kgに対して、160cm・1,100kgと、ジャージー牛のほうが小型・痩せ型。乳脂肪分・無脂乳固形分は5%・9%に対して、3.6%・8.7%程度と、ジャージー牛のほうがより濃厚。乳量は年間3,500kgに対して、5,000kgと、ジャージー牛のほうが少乳。ジャージー牛は乳牛として飼育されるのが普通で、肉牛としての用途は多くありませんが、ホルスタイン牛は肉牛としての用途も目的として飼育されています。日本国内の乳牛の98%はこのホルスタイン牛です。結局のところ、ジャージー牛は濃厚・少乳が特徴で、小規模農場で高脂肪の加工製品への用途を意識して飼育されているケースが多い、ということになります。
 
ジャージー島は、フランス北西部のノルマンディー地方(州)の西方沖合、わずか20kmに位置する大きさ116平方km(厳島の約4倍)の小さな島です。イギリス本土南部からは約160km(フランス本土までの8倍)離れています。5島から成るジャージー諸島全体の人口は98,000人(2011年)。イギリス王室の直轄地と言いながら、地名や道路などにはフランス系の名前が多く、島の歴史から見ても、地理的にも、見かけ上はイギリスよりもフランスと言って良いかもしれません。現在は、金融(タックスヘイヴン)、観光、農業で産業が成り立っています。アメリカ合衆国のニュー・ジャージー州もこの島に由来します。
 
イギリス海峡チャンネル諸島に浮かぶ、このチッポケな小島に由来する「ジャージー」が、後にグローバルな言葉として定着するには何世紀もの長い年月が必要だったのでしょうね。定着するまでの経緯は知る由もありませんが、その歴史の長さを、改めて感じます。
 
 
チーフアドバイザー(技術)山本茂之

 

※このコラムは2012年12月6日に配信されたメルマガ「広島校だより Vol.075」に掲載されたコラムです。メルマガ「広島校だより」を配信希望の方は、広島校だよりからお申込みください。