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第45回「一所懸命と言うこと」

10月の執筆者は、 チーフアドバイザー(ものづくり)大村 卓一です。

「一所懸命と言うこと」

ゴルフの練習場で練習を終わり精算しているとき、『よく通っていただき有り難うございます』と言いたげな従業員と目が合ったので、「随分沢山ボールは打つのだけれど、なかなか上手になりません。どうすれば良いのですかね?」と聞いてみた。『ティーチングプロに見てもらいなさい』と言う答えが返ってくるものと考えていました。


ゴルフを始めて長いのですが、練習場でお金を払ってスィングを見てもらったことは片手で数えられる位しかありませんでした。薦めてもらえばそうしようと真剣に考えていました、そのときは。しかし、期待に反してその若い従業員さんは失礼にも、『お客さんは一生懸命になっていないのですヨ』と言い切りました。その時はそう聞こえました。


それ以降は立て板に水のごとくで、私は口を挟むことなく黙って聞いていました。『練習場に来てボールを打てばいいものではありません』『プロのスウィングや昔打っていた一番良い球を思い浮かべてそれを求めてもだめです』『努力が足りません』と。


最後に、『上手くなるとはどんなことをイメージされていますか?』と、逆質問されました。私の練習を見てもいない人からそんなことを言われ、頭を殴られたようなショックを受けました。結構一生懸命練習しているつもりでしたから。


家に帰って、ネットで一生懸命を調べてみました。類語辞典が引用され、刻苦勉励、一心不乱に、一途に、一意専心、全身全霊を傾けて、まじめに、けなげに、真剣に、愚直に、などが同義語として紹介されています。私の練習も一生懸命やっていることが裏付けられた様な気がしました。でも、ちょっと引っかかることばです。これらの類語は、「・・・・、しかし結果は期待はずれだった」、と言う文脈にも多用されるからです。「変だなー」と言う印象。


そこで、もう一つ辞書を引いてみました。広辞林曰く、『元来は一所懸命』とありました。一所懸命を引くと、『命がけですること』そして『中世、賜った一箇所の領地の知行を頼みにして生活すること』と解説されています。ゴルフ練習場での会話の中身に当てはめてみると、“一箇所の領地の知行”とは私のゴルフのスキルに置き換えられます。それでは“生活する”という部分は何を指すのか? あの従業員さんは「上手くなるとはどんなことですか?」と問いかけ、私は答えに窮してしまったあの問いかけの答えの部分です。自明のことですが、上手くなって生活の手段にしようなどとは毛頭考えてはいません。しかし、具体的な目標が思いつきません。大げさですが、それ以来目標のことが頭から離れませんでした。かなりの時間を経て、自己満足できる年間平均スコアーを達成することだと気付きました。各場面で自分の能力、天候、ボールの状態を判断し、その一打で起こりうることを冷静に的確に想定できるようになることが目標達成の第一関門のようです、私の場合は。そういう場面に対応できるように練習をするというのが私のゴルフの一所懸命を完成することになるのです。長い年月を経てやっと目標を意識するようになりました。


以来、それに向かっていろんなことをやるようになりました。


家の中でよくクラブを振るようになって女房の顰蹙(ひんしゅく)を買うことが増えましたが、確実に進歩していることを実感しています。あの従業員さんは、「一所懸命練習してください」といっていたこと、そしてそれは「目標をしっかり定めて想定外のことを最小限にするようにスキルアップをしてください」と言っていたのをようやく理解できるようになりました。感謝しています。

 

先日、オスプレーが日本でも飛行しました。滑走路が不要で高速飛行が可能で航続距離が長い飛行機がほしいという長年のニーズを実現させたものです。技術者が関係者と共に正に一所懸命に開発しただろうことは想像できます。一所懸命の中身は想定できる全ての場面で不具合を撲滅することだったのだろうと推察します。それが出来たから日本での飛行になったのだと思います。この種の機体ではどのような場面まで想定されているのか思いも及びませんが、想定外のことが絶対にないことを祈念しています。

 

チーフアドバイザー(ものづくり) 大村卓一


 

※このコラムは2012年10月3日に配信されたメルマガ「広島校だより Vol.073」に掲載されたコラムです。メルマガ「広島校だより」を配信希望の方は、広島校だよりからお申込みください。