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第39回「小さなこと」

4月の執筆者は、チーフアドバイザー(モノ作り)大村 卓一です。

「小さなこと」

 通勤の経路に小学校の校門があります。

 

私の住んでいる地域では集団登校をしているのですがこの学校は一人ずつ登校しています。校門では校長先生を中心にして先生や上級生だろうと思われる数人が迎えています。始業時間より少し早い時間帯なので、駆け足で登校してくる児童のことは分からないのですが、校長先生は児童が校門に差し掛かると手袋を外し目線が合うように中腰になって『おはようございます』と丁寧に挨拶しながら、一人一人とハイタッチされています。私がここを通るときは必ずこの光景に出会い、清々しい気持ちで1日をスタートできるのです。何時の頃からか、ハイタッチまではしませんが校長先生と目で挨拶を交わすようになりました。小学校のホームページ(義務教育の公立の学校が教育方針や行事、更には日々の出来事までホームページで紹介しているのです、驚きました)を覗いてみると、挨拶運動は上級生が提案した自主活動で学校もその活動に『あいさつの達人』と言う認定証を出して奨励しているようです。また、校長先生のサイトには、過去数年間の殆ど毎日の出来事が日記風に紹介されており、更に『当たり前を積み重ねると特別になる』と言うモットーが紹介されています。校門で校長先生はそれを実践されているのです。

 

この言葉はどこかで見たような気がして、名言集を探してみました。

 

『小さなことを重ねることが、とんでもないところに行く唯一つの道』とあのイチロー選手が言っていました。どんな場面で発言されているのか定かではないのですが、二人の言っている『当たり前のこと』と『小さなこと』は合い通じるところがあるように思います。そして、私達はその結果である『特別なこと』や『とんでもないところ』に遭遇したとき、そのパーフォーマンスの前提になっていたであろう『当たり前のこと』や『小さなこと』を『積み重ね』努力されていることにも思いをめぐらせて一段と大きな拍手を送っているように思うのです。

 

そう言えば、ものづくりの場面でも同様のことがあります。電子デバイスの製造工程に移して考えてみましょう。例えば半導体や液晶パネルの製造工程は100を超えるプロセスで構成されています。無駄な工程は一つもありません。各工程の歩留まりが95%だと、1000個の原材料を投入しても出荷できるものは6個しかありません。適正利益が見込める基準が900個だとすると各工程の完成度は99.9%以上が必要と言うことになります。各工程の完成度を向上してゆくプロセスでは多くのknow-howを生み出してきました。そのknow-howの多くは、分布や昇温・高温速度を含めた温度条件、時間管理、湿度や微粒子を含む環境雰囲気条件が加工している対象物に複雑に絡んでいる影響を詳細に突き詰め科学して構築したもの。トータル歩留まり90%のラインを作るという『特別なこと』や『とんでもないこと』を実現してきたのは、正に小さな積み重ねでした。これらのものづくり技術は競争力の必要条件だった。電子デバイスやフラットパネディスプレーが市場に出始めた頃はその必要条件が事業を引っ張っていました。しかし、今の『特別なこと』や『とんでもないこと』はその先に移行しているようです。

 

私の好きなフレーズに、『この秋は風か嵐か知らねども、明日のつとめに田草とるなり』─二宮尊徳─、というのがあるけれど、『特別なこと』『とんでもないところ』を思い描いて『当たり前のこと』や『小さなこと』を積み上げてゆくことが事業十分条件になるのではないだろうか。校長先生の教え子が思い描いている『特別なこと』に期待したい。


チーフアドバイザー(ものづくり)大村 卓一
 

 

 ※このコラムは2012年4月4日に配信されたメルマガ「広島校だより Vol.067」に掲載されたコラムです。メルマガ「広島校だより」を配信希望の方は、広島校だよりからお申込みください。