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第22回「サービス産業の知的財産」

11月の執筆者は、チーフアドバイザー(知財)桑原 良弘です。

「サービス産業の知的財産」

 現在、経済産業省ではサービス産業の生産性向上支援事業が推し進められ、サービス300選など、優れたサービスを提供する企業を認定し表彰している。また、中国支部経営支援課においても中国経済産業局などとの連携により、本政策においてモデルとなりうる企業支援を進めている。製造業の生産性をサービス業に展開して効率化を図ろうというのが趣旨である。
 さてここで、「生産性」という表現が気になるところ。受け取り方にもよるが「早い、安い、うまい」を追求するのか…。これだけではサービスの質は高められず、結果的に顧客のニーズに応えられない恐れがある。支援対象企業に生産性の話をすると、大抵サービス業は臨機応変に対応することが必要で、そんなに簡単にはいかない、というやり取りになる。もっともな話だ。
 今回はビルメンテナンス業における知的財産活用の事例を紹介する。ビルメンテナンスはサービス業としては代表例で、例えば床清掃、窓清掃、警備といろいろな作業・業務がある。最近は駅やショッピングセンターにはエスカレーター、エレベーターが多く設置され、あるいは増設されている。乗る機会は以前より多くなっていると感じている。
 このいつも目にするエスカレーター。乗ってしまえば勝手に昇り降りしてくれる便利な機械である。このステップに載るときちょっと注意してみると。 まず、ステップには狭い櫛状の溝がついている。ここが絶妙にかみ合ってスムーズに動く。縁には危険を示す黄色い帯。新しいときは鮮やかな黄色だったのか。そういえばエスカレーターの手すりや壁面は掃除しているのはみるが、ステップの清掃はあまり見たことがないし、埃もつもっている。掃除と言ってもこの溝をきれいにするには相当の時間と専用の道具、作業者の熟練がないと大変な作業になるだろう。
 ここでアイデアを絞った経営者がいた。広島市に本社を置く善管である。社長の小林さんはエスカレーターのステップを自動的に清掃する装置を開発したのだ。溝にあわせたブラシにより埃をかき出し自動的にきれいにしていく。もちろん作業は無人。生産性はおのずと向上し、しかも人手による清掃より確実にきれいにしていくことができる。生産性向上と共に、新たなサービスとなったのである。この話はこれで終わらない。小林社長はこの装置の特許を取得しようとした。相談を受けた弁理士は「装置では弱い。方法特許を取得しよう」とアドバイスしたそうだ。これはすごいことである。方法特許の力が最大限発揮できるのは確かにサービス業なのである。特許請求項も至ってシンプル。感心してしまった。簡単に言えばエスカレーターを装置で清掃する、というものである。まさに清掃するという技術の発明であり、産業に大きく貢献するものである。
 この清掃装置は同業者に注目されることになり、大手メンテナンス業者から装置の販売と共に実施権許諾の打診があったのである。その後善管は実施料を得るに至っている。メンテナンス作業は開放された場所で行うことから、その技術は常に見られている。隠しようがない。しかし、しっかりと知財を確保することで新たな利益と他社と連携して新たな市場を開拓する源泉となったのである。サービス産業の生産性向上と共にイノベーションにもつながったモデル的な事例である。
 善管のような実にリアルなビジネスモデル特許の活用事例は大いに参考にしたいものである。サービス産業が効率化とともに新たなビジネスが構築できることを願ってやまない。知財と共に。 

 

チーフアドバイザー(知財) 桑原 良弘