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第19回「ニーズの本質」

8月の執筆者は、チーフアドバイザー(知財)桑原 良弘です。

「ニーズの本質」

  ある情報筋から、ニーズとして次のような情報が発信されました。
  “漬物のにおいを抑える手段はないか、弁当を暖めると臭いがきつくなるので、抑える方法はないか”。
 このような話を聞いたとき、読者の方々はどのようにお考えになりますか。私はこのような課題は数回伺ったことがあります。最初は私もすぐさま消臭技術を思い浮かべ、いくつかの手段を考えておりました。相談のあったある方からも、漬物の臭いが抑えられれば、もっと若い人が漬物を食べてくれるだろう。アンケートからも独特のにおいがいやだ、という結果が出ている、という理由もありました。このような話を聞きながら、技術的な手段を考えている自分のとなりにいる、漬物が好きな自分が言いました。「漬物は複雑な香りがするからおいしいのだ、臭いを抑えたら、ただのサラダでしょ」 こう考えたところで、このニーズの本質はどこにあるのか、次のように考えました。
 “臭いがするのが漬物である、漬物を好きな人が食べればよいのであって、嫌いな人は何をしても食べない。よって、漬物の匂いを抑えるニーズは存在しない”ということです。商品開発の基本的なことを考えてみれば、漬物は暖めて食べるものではないし、弁当はもともと温めなくともおいしく作るのが基本。暖めることを前提とするならば、もともと袋入り等にして別にしておけば、本来のおいしさを保った漬物である。これを無視した弁当を作ること自体が、ニーズの本質が見えていないことである。このような結論に至りました。また、漬物ファンを増やすならば、従来の製法から進化させて、新しい食材や酵母などの改良で、新商品で新たな顧客の開拓することが必要であり、衰退を免れる手段でもあると考えました。私も消臭技術を考えることをやめて、別容器にすることや、今ある漬物を対象として考えるのではなく、新しい漬物を開発する事のほうが重要であることを提案しました。
 ニーズは聞き方や捉え方でずいぶん認識が変わってしまうものです。でも本質的に考えること、これは商品や事業のコンセプトを考えるそのものであることがわかります。このことに関連して、こんなこともありました。
 あるプロジェクト会議でのこと、大手メーカーから設備で課題となっていることを提示していただき、そのニーズに基づいて中小企業が新たな展開を図るきっかけとして連携して進めよう、という内容です。おおよそ30テーマほどの課題が出され、その検討会議に入ったところ技術屋の多くはこの方法で解決できる、この方法を試してはどうかと…。なるほどね〜というアイデアが飛び出すのですが、待てよ。“本当にこのニーズは存在するのだろうか?”という疑問が湧いてきました。この改善によってどれぐらいの収益が上がり、多く使われるものになるのだろうか。せっかく金と時間を使ってもほとんど使われないのでは高い買い物になって誰も使えない。これでは売れない商品会議になってしまう。そこでテーマ選定の基準を“他のメーカーに売れるもの”に変えることにしました。その結果、2つに絞ることができたのです。
 本質とは“物事の本来の性質や姿。それなしにはその物が存在し得ない性質・要素”をいいます。前回と同様にぜひ記憶の片隅に。

 

チーフアドバイザー(知財) 桑原 良弘