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第18回「水について」

7月の執筆者は、チーフアドバイザー(モノ作り) 大村 卓一です。

「水について」

 6月は水の月である。意識をしなくても我々の生活に入り込んでくる。太陽エネルギーによって海の水を蒸留し真水を地上に潤沢に供給してくれる季節だ。植物は大いに繁茂する。そして我々は大きく熟した実や根や茎や葉を食物としていただく。大気中の水-水蒸気-が一番多い時期には水蒸気や食物中の真水を糧にして腐敗菌などが大いに繁殖する季節でもある。食物中の真水を塩水に置き換えることによって長持ちさせると共に酵素を利用して旨みを付け加えているのが、漬物と言う保存食なのだろう。塩の滅菌能は腐敗菌の命の水をその細胞の外に排除することにあり、梅漬けはこの効用を応用した食品だ。

 原稿を執筆した前日に梅を漬けました。いま水が上がってきています。この作業のときいつも疑問に思うことがあります。それは、「きれいに洗った梅を約8%の塩に漬け込んで2−3日すると、梅の実が水中に没する状態になる」こと。梅の実は多少しわが出来ていますがほぼ原形を留めているように見える。梅の実の大きさは小さくならず水だけ増えているように見えるので、この水が浸透現象によって梅の実から出てきたものだということが感覚的に理解できないのです。どこからか水が浸入してきたような錯覚に陥るわけです。そして、私の思考は、「梅漬けは梅雨時のことだから、空気中の水分を取り込むのだろう。そういえば特に天然の塩がよいと聞く、天然の塩にはニガリが含まれており水を取り込むのだ。そうだったのか!」と展開し、“ガッテン”ボタンを押していました。

 皆さんそのような経験はありませんか?

 誤解の原因は梅の実のサイズの減少量に比べ容器中の水の量が多いことにあったわけです。小さくなった以上に何故そのような錯覚をしていたのか。それは2つのことが原因だと思います。

 まず第一に、梅の実は約70%(後の計算を単純化するために3分の2とします)が水分だと言うことを知らなかったこと。梅の実の細胞を構成している水が浸透現象によって実の外に吐き出されます。浸透現象は細胞中の塩分濃度と吐き出された水によって希釈された後の塩分濃度が等しくなるまで続くので、浸透現象が完了したとき、元の梅の実の体積は3分の1で、それを3分の2の水が取り巻いている状態です。従って水の中に梅の実が浮いている状態に見えるわけです。しかし、元の3分の1の体積になっている梅の実が小さくなっているようにはどうしても見えないのです。

 そこで登場するのが2つ目の原因で、人の目は(梅の実の)体積減少を推察する精度が悪いことを知らなかったこと。梅の実の形状を球形と仮定して試算してみます。球形の体積が3分の1になったとき直径は元の球の約7割の大きさに減ずるだけなのです。体積が直径の3乗に比例するからそうなります。長さはかなりの精度で大小を判断できますが、面積となると自信が揺らぎ、体積に至ってはそれこそ3乗に比例して判断能力は減退するもののようです。実際には浸透現象の後、生成した塩水が梅の実の組織に入り込んで行くので、見かけ上梅の実と塩水の体積比は小さくなり梅漬け後3-4日では梅の実と水の体積比が1:1程度になっているように見えます。その場合、球の大きさは元の直径の約8割を保っているのです。球の直径が7割に減じただけでその体積はおよそ3分の1になってしまう(梅の実と水の体積比が1の場合には直径は元のサイズの約2割だけ減るだけ)と言うことが私の疑問を解く鍵でありました。梅漬けの科学に納得し、改めて『ガッテン』を連発しました。

 中学生、いや、小学生でもこの科学は理解しているだろうと思いますが、感覚的な誤解は中々解けなったのではないでしょうか?

 

  この記事が掲載される頃、梅雨があけ大気中の水は減少し、今度は海に戻された水を楽しむ季節になっているはず。食物中の水とは違う形態の水という自然の恩恵を大いに享受したい。

 

 地球は水の惑星と呼ばれている。「はやぶさ」のニュースに隠れて小さな記事になっていたが、アポロの石の分析結果として「5大湖の水を上回る量」の水が月にあると伝えられていた(日本経済新聞6月16日)。水は生き物が一番関心を寄せるテーマである。             

 

モノ作り支援チーフアドバイザー 大村 卓一