トップページ > 経営支援・相談 > コラム「モノ・知・技」 > 第17回「ホールとボール」

第17回「ホールとボール」

6月の執筆者は、チーフアドバイザー(技術) 山本 茂之です。

「ホールとボール」

 今年2月に開催されたバンクーバーオリンピックの熱狂から、早4ケ月余りが経とうとしています。日本選手がメダルが取れそうなスピードスケートやフィギュアスケートが放送される時間帯には、瞬間視聴率もうなぎのぼりだったようです。

 バイアスロンは、たまたまテレビをかけた時に放送していましたのでじっくりと見ましたが、なかなか考えさせられる競技です。バイアスロンは文字通り、二つの(バイ)競技(アスロン)という意味で、クロスカントリースキーとライフル射撃の二つを組み合わせたものです。バイアスロンには何種類かの競技方式がありますが、その時は「スプリント」と言われる種目が放送されていました。

 「スプリント」は、男子の場合、距離10kmで1周3.3kmを3周し(クロスカントリースキー)、途中にある射撃場で最初の周で伏射、次の周で立射の合計2回の射撃(ライフル射撃、それぞれ5個の標的に1発ずつ射撃、計10発)を行い、弾が標的を外れた時は、弾1発の外れにつき1周150mのペナルティループを余分に1周するという競技です。最終的にはタイムで順位が決定されます。的を外してしまい、ペナルティル−プに出ていく選手の顔には何とも言えない悲壮感が漂っているのが見て取れます。

 伏射では50mの距離から直径45mmの標的5個を順次撃っていきます。立射では距離は同じですが、標的が直径115mmと大きくなっています。それだけ、立射は難しいということです。

 標的に命中させるには、一体どれくらい正確に的を絞らなければいけないのでしょうか。弾丸は実際には放物線を描いて飛んでいきますが、ここではわかりやすく真っ直ぐ一直線に飛ぶと仮定して計算してみましょう。射撃位置から標的の中心方向と円周方向(標的の端)とがなす角度をθとすると、三角関数を使ってtanθ=45/(2×50×1000)(伏射の場合)を満足するθを求めると、約0.0258°となります。この角度内に収めないと命中となりません。思ったより、ずいぶんと小さな角度です。立射ではθは約0.0659°となり、やはり小さい。「的はずれ」にならないよう、銃には照準器が付いていますが、呼吸の乱れ、手のぶれ等が生じて、不幸な「的はずれ」が起きてしまいます。

 的に弾を当てるのはバイアスロン(射撃)ですが、ホールにボールを入れるのはゴルフです。ゴルフでもこの不幸な「的はずれ」がしばしば起きてしまいます。

 バイアスロンでは弾は的の面に対して垂直に当たりますが、ゴルフではボールが転がる面(グリーン面)にホールが鉛直に作ってあり、その上をボールが通る時に重力でホールに落ちて入るので、正確に言えばバイアスロンの射撃との単純比較は出来ませんが・・・。

 ゴルフの「的はずれ」は、パッティング時に自分の向いている方向が正しいのかどうか、パターヘッドの向きが正しいのかどうか、正しくストローク出来るかどうか、の正にゴルファーの悩みそのものです。ゴルフの場合はどれくらいの正確さが要求されるのでしょうか。1mのショートパットで考えて見ましょう。ホールの直径は4.25インチ≒10.8cmですから、ホールの中心と縁とのなす角度θを求めると、sinθ=4.25×0.0254/2の関係から、θは3.094°となります。ホールまでの距離が短い1mだと、角度のズレはかなり許されそうです。そう考えれば、ショートパットは気楽に打てるはずなのですが。10mからのパットでは、θは0.3093°となり、ずいぶん小さくなります。

 射撃とは違って、ゴルフの場合にはボールがホールの上を通る時、重力で落ちて入ります。この時のボールの運動はグリーン面(水平面)で等速度運動、それに鉛直な方向では重力下での自由落下運動です。ホールの手前側の縁を通り過ぎる時のボールの速度を1m/secとすると、反対の縁に達した時、鉛直方向に3.68cm落下することが簡単な計算でわかります。2m/secだと0.921cm、3m/secだと0.409cm、それぞれ落下します。逆に0.5m/secだと14.7cmも落下します。ボールの速度が速すぎて、向こうの縁から飛び出してしまう不幸な「的はずれ」を何度経験したことでしょうか。

 また、ボールは直径1.68インチ≒4.27cmの大きさがあります。ボール2個半でホールの直径とほぼ同じ大きさです。パッティングする位置から見て、ホールの左右の縁あたりに転がったボールは縁を舐めるようにしてクルッと向きを変えてしまい、ホールには入らないことがしばしば生じます。

 更に、グリーン面は理想的な水平面ではありません。右に傾斜していたり、左に傾斜していたり、上っていたり、下っていたり、芝が順目だったり、逆目だったり、またこれらの要素が複雑に絡み合っているのが現実です。プレーヤーは、これらの要素の転がりに及ぼす影響度を即座に判断して、方向とスピードを決めてパッティングしなければいけません。こんなことを考えると、数mのパットが入るのは奇跡としか言いようがない、という結論になってしまいますね。

 

 チーフアドバイザー(技術)山本茂之