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第16回「本質を見失わない経営戦略」

5月の執筆者は、チーフアドバイザー(知財)桑原 良弘です。

「本質を見失わない経営戦略」

本質はessence、類義語としては真髄(nature)あるいは最も重要な特質(core)といった語があります。“物事の本来の性質や姿。それなしにはその物が存在し得ない性質・要素”を意味します。
国内航空券を一覧で比較・購入できる「国内線ドットコム」はご存知だと思います。JAL&ANA&JAS(当時)の共同事業なのですが、この会社設立について書かれた取材記事では、事業における本質と原点について注目されていました。


トップダウン方式で始まった国内線ドットコム、各社から有能な人材が集められた。まったく異なる企業文化を持ったライバル同士。サービス開始に至る過程では案の定、幾つかの軋轢も生じた。それを乗り切ったのは、「各社の事情や文化は持ち込まない。消費者の利便性向上という共通の目的のために協調しよう」という顧客中心主義の姿勢だった。「だから、それぞれの会社の文化を極力持ち込まないようにした。ANAとしてどうだとかJALとしてどうだとか、そういうことを封印して、『この会社は何のために作られたのか』という原点を思い出すことで乗り切ってきた」とあります。このような事例は新事業構築において、それもまったく異なる企業文化を持ったライバル同士でまとまったすごい事例でしょう。顧客中心主義という本質、何のために事業を行うかという原点を見失わない、見つめなおすことで目的を遂行し成功へ一丸となって進めるものなのです。


産学官連携ではどうでしょうか。異なる文化をもった事業体を結びつけるのは容易ではありません。本質の捉え方が事業体によってまちまちなのです。この状況を理解しないで自社だけの思いを通すと、まずうまくいきません。大学や研究機関の成果は「使わせていただく」という気持ちが大切です。事業に利用するための権利化は重要ですが、その扱いに関して研究者を大いに認めていくことです。私も産学連携の調整業務を多くこなしてきましたが、その中で新事業開発のためには研究者の心情において協力していこうと思ってもらうことを重視しています。研究成果をどう事業に役立てるか、そのための役割分担、おおよその費用分担、成果の配分や権利化に関するアドバイス、補助金等の紹介。このようなことを詰めていくと研究そのものが具体的になることを両者に理解してもらうことで協力関係が構築できるのです。異なった文化同士を進めていく事業の本質を様々な面で理解を深めていくことで、本質を見失わない関係を構築できるのです。そして定期的に見直していくことが必要です。この関係構築をおざなりにすると、開発進行に時間がかかったり、トラブル時に対応が遅れたり、ひどいときには研究費を踏み倒すことさえ出てくるのです。


本質を見失わないようにするにはどうすると良いか。そのひとつの手段は第三者に協力を依頼することです。当事者間で調整するのはよほど信頼関係がない限りまとまらないものです。ただし、その第三者は“ビジネスをプロデュースする視点を持っている”“信頼のできる”コーディネータやアドバイザーに限られます。もちろん、その第三者をトップが認めていることも重要です。このような人材と一緒に進めることで、開発中の事業の本質をとらえ、ムリムラムダを抑えた開発が進むことでしょう。
ビジネスなしにはその物が存在し得ない。事業の本質について再点検を!

執筆:チーフアドバイザー(知財) 桑原 良弘