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第15回「おいしさを演出する水の話」

4月の執筆者は、チーフアドバイザー(モノ作り)大村 卓一です。

「おいしさを演出する水の話」

 3月16日付け日本経済新聞の手延べそうめん揖保の糸の宣伝記事が目に付きました。

 揖保の糸は「瀬戸内地域で生産される小麦粉と地元・播磨の良質な水と塩を原料にして、五百年の伝統的な手法でヨリをかけて延ばし、ねかした後また延ばすというように全11工程を経て丹念に作られる」そうです。表面の電子顕微鏡写真も掲載されていました。直径2〜5ミクロン位の小さな球と直径約20ミクロンの大きな球(共にでんぷん)が全面に分散し、その中に一辺が5ミクロン位の立方体(塩)が点在しています。それらを繋ぐような形で直径1ミクロン位の直線状のグルテンが麺の長手方向と思われる方向に規則的な間隔で配列し、微細な気泡を抱え込んでいるという構造をとっています。「この微細な気泡に水が入り込み茹でムラを防ぎ、のど越しの良さ・清涼感を生み出し、ねかしと延ばしを何回も繰り返すことでたんぱく質から生成されたグルテンがでんぷんを包み込んでいることでコシの強さがでてくる」と、井上猛・兵庫県手延素麺協同組合理事長は解説されています。この構造体が揖保の糸の品質の必要条件のようです。

 地元産の小麦を原料としたたんぱく質含有量9%前後、小粒径のでんぷんが多いという中力粉と、ねかしと延ばしの繰り返しの中で小麦粉の中のたんぱく質がグルテンを形成してゆく反応をコントロールしている塩と軟水が微細な気泡を内包した構造を作り上げていることを頭の中で理解しました。

 更に、井上理事長は出荷までの保管が重要であると強調されています。保管中には酵素の働きで化学反応を起こしてコシが強くなるそうです。保管期間中で最も重要な時期は6,7月で、適量の水分と温度がその反応を制御していることがうかがえます。

 今日のように評価手法がなかった時代にこれだけ微細な構造体を手探りの試行錯誤で作り上げてきた先人の知恵と根気に驚きと畏敬の念を改めて感じながら記事を読みました。その紙面を見ていて初めに感じたことは、「何でここに最新のハイテクエレクトロデバイスの写真があるの?」、という疑問でした。それくらい2つの構造の間には類似性を感じました。記事を読んでゆくと、厳選された原材料を処理温度は違いますが、混練・成型・乾燥などに相当する工程で加工しているのですから共通点が沢山あるのは当たり前なんだと納得しています。

 また、私はパンやケーキを焼くことがあります。ふわふわした食感がおいしさの必要条件ですが、そのためには焼く前の生地の中に沢山の強い小さな気泡を作ってやることと認識しています。そうめんでも微細な気泡が重要な要素であるということを知り驚きました。

 前回(1月)、私は(使い捨て)カイロの原理を通じて熱を引き出す水の力を紹介しました。今回も水をテーマにしたつもりです。食感を決めている気泡を作るための水の役割を紹介しました。

 

参考資料財団法人製粉振興会の提供している「小麦粉のおはなし」:www.seifun.or.jp(新規ウィンドウに表示)

兵庫県手延素麺協同組合のホームページ :www.ibonoito.or.jp(新規ウィンドウに表示)

 など

 

 チーフアドバザー(モノ作り) 大村 卓一